[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2021年12月号 326号

(2021/11/10)

第200回 ねじ業界 ~中堅・中小企業の技術伝承の手段として期待されるM&A

澤田 英之(レコフ 企画管理部 リサーチ担当)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 本稿ではねじの製造を主要事業とする数少ない上場会社の中で、東証1部上場の日東精工と東証2部上場のヤマシナについて事業概要とM&A動向をまとめてみた。幾つかの文献に目を通す中で両社に対する関心が高まり、レコフM&Aデータベース((株)レコフデータ提供)で確認したところ、両社とも技術補完的な複数のM&Aを行っていたことが執筆検討のきっかけである(文末※1参照)。


2. 日東精工~事業概要とM&A動向

(1)沿革と事業概要

 京都府北部の綾部市に本社を置く日東精工は、日本のねじ業界のリーディング・カンパニーである。綾部市は古くから養蚕が盛んな繊維産業の町で、1896年には現在東証1部に上場しているアパレル大手のグンゼ(当時の社名は郡是製絲)がこの地で創業された(文末※2参照)。これによって女性が雇用される場ができ、その後、男性が雇用される場を創出し地域を支えることを目的に設立されたのが日東精工である。日東精工の統合レポートによると、同社の前身は四方製作所という小さな時計の修理屋であり、従業員が寄宿舎に住み、夜は材料や機械、数学、英語などを学べる学校でもあった。1938年に地元の有志の出資により日東精工が設立され、時計修理で培った精密加工技術をもとに事業を拡大していった。社名の由来である「日は東より」は、綾部の美しい自然の姿からとったものだという。

 現在の同社の主力事業はファスナー(工業用ねじ)事業であり、前期末の売上高329億円のうち約7割を占めている(図表1参照)。この他、産機事業ではねじ締め機などを生産、また、制御事業では流量計、計測・計装システム品などを生産している。

(図表1)日東精工の事業別売上高・構成比(2020年12月期)
事業名事業概要売上高売上構成比
ファスナー工業用ファスナーやねじ製造用工具等の金属製品を生産23471.20%
産機自動ねじ締め機、自動組立機械等の一般機械器具を生産5516.60%
制御流量計、計測・計装システム品、地盤調査機及び分析・計測機器等を生産4012.20%

(注)有価証券報告書より作成

 第二次大戦直後の厳しい事業環境の中、日東精工はダイハツ工業の自動車部品や千代田光学精工(現コニカミノルタ)の写真機部品加工を請け負うようになり社内に活気が戻ったという。

 現在のファスナー事業開始のきっかけは、

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