[対談・座談会]

2022年6月号 332号

(2022/05/13)

[座談会]【本音で語る】日本におけるPEファンドの活動と今後の展望

【出席者】(五十音順)
市川 雄介(アドバンテッジパートナーズ パートナー)
片柳 淳子(ユニゾン・キャピタル パートナー)
小林 隆人(ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン マネージングディレクター)
鈴木 健太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 パートナー弁護士)(司会)
秦 由佳(産業革新投資機構 ファンド投資室長 マネージングディレクター)
  • A,B,EXコース
(左から)小林隆人氏、秦由佳氏、片柳淳子氏、鈴木健太郎氏、市川雄介氏

(左から)小林隆人氏、秦由佳氏、片柳淳子氏、鈴木健太郎氏、市川雄介氏

<目次>
  1. 自己紹介
  2. 最近のPEディールの環境、投資手法の変容・傾向
    • PEファンドによるグロース投資
    • VCとの競合・協調の可能性
    • 複数のPEファンドのクラブディール
    • 他ファンドとの差別化戦略
    • デジタル時代のPEファンド~デジタルDDの可能性、バリュエーション・バリューアップへの影響~
  3. PEファンドによる(投資活動以外の)各種イニシアティブ
    • コロナワクチン職域接種の実施
    • SDGs/ESG/DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)に関する取り組み
    • LP向けのESGレポート、女性スタッフの採用・リテンションへの対応
  4. 今後のM&A市場の見通しとPEファンド業界の展望
―― 日本でプライベート・エクイティ(PE)投資が本格化してから20年以上になります。この間、中小・中堅企業における事業承継、上場会社の非上場化・マネジメントバイアウト(MBO)、大企業における非中核事業の切り出しの動きが着実に広がってきています。

 PEファンドによる成功例が積みあがってきたこともあって、日本でもPEファンドによって、企業が自力では伸ばしきれないビジネスをPEファンドと組むことで成長させられる、収益が上げられるという認識が高まってきています。実際、コロナ禍にあっても、新規案件のフローはむしろ増えています。その背景には、経営環境の変化を踏まえて早めに手を打っていこうという企業経営者の意識の変化が反映されています。また、大企業がベンチャー企業への投資を通じてイノベーションの種を取り込もうとするのと同様に、PEファンドが投資先の成長を実現するために投資先を通じてベンチャー企業との接点を持つ動きも増えてきました。さらに、PEファンドは、投資先企業がESGの観点を含めて時代の要請に沿った形で成長ストーリーを実現するプロデューサーともいえる存在になりました。

 本日は、主要なPEファンドの皆さんにお集まりいただき、柴田・鈴木・中田法律事務所の鈴木健太郎パートナー弁護士に司会をお願いして、日本におけるPEファンドの活動と今後の展望について、本音で議論をしていただきたいと思います。

I.自己紹介

鈴木氏

鈴木 健太郎(すずき・けんたろう)

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2001年弁護士登録後、長島・大野・常松法律事務所入所、New York University School of Law留学、Debevoise & Plimpton LLP(New York)出向、経済産業省産業組織課出向を経て、2014年柴田・鈴木・中田法律事務所開設、同パートナー。LBO及びLBOファイナンス(シニア、メザニン)、ベンチャー投資を中心に企業法務全般を手がけている。主な著作に、『買収ファイナンスの法務(第2版)』(共著・中央経済社)(第9回M&Aフォーラム賞奨励賞『RECOF 奨励賞』受賞)等がある。

鈴木 「イントロダクションとして、皆さんに自己紹介をお願いしたいと思います。その際、ご自身がPEファンドあるいはPE業界と最初に関わるようになったきっかけや、今と当時の違いが分かるエピソードなども交えていただければと思います。まず、本日司会を務めさせていただく私からお話いたします。私は2001年に弁護士登録しており、当時はちょうど日本でPE案件が登場し始めた頃でした。日本のPEファンドの草分けとも言えるアドバンテッジパートナーズ(以下AP)やユニゾン・キャピタル(以下ユニゾン)は当時から国内御三家と呼ぶ人もいるくらい有名でしたが、外資系ファンドは、今ほどのプレゼンスはなかったかもしれません。

 私が携わったPEファンド案件1号は2001年、キリウに対するユニゾンのTOB案件でした。振り返ると黎明期ということもあり、先例となる案件が少なかったので、契約書などを一から作成・検討することがほとんどでしたし、ドキュメンテーション会議も今よりもだいぶ長時間やっていたように思います。

 本日は、最前線でご活躍されている皆さんの本音の議論を楽しみにしております。それでは、APの市川さんからお願いします」

市川氏

市川 雄介(いちかわ・ゆうすけ)

一橋大学法学部卒業。日本興業銀行(現 みずほ銀行)でデリバティブプロダクツ、M&Aアドバイザリー業務のマーケティング等に従事。2003年、アドバンテッジパートナーズに参画。以降12社の投資に携わり、現在はテック・法人サービス・ヘルスケアに係るセクター担当パートナー。経済ニュースメディア「NewsPicks」プロピッカーでもある。

市川 「私は1998年に日本興業銀行(現みずほ銀行)に入りまして、主にデリバティブのチームに所属しました。その後、2002年の三行統合時に、ミッドキャップの取引先を対象としたM&Aのオリジネーションチームをみずほ銀行に立ち上げることになって、実質転職のような感じでM&A業務を始めました。部署の隣にレバレッジド・ファイナンスのチームがあり、盛んにPEファンドと取引しているのを見て、本で読んだ世界が身近に来たと思ったのが、PEファンドとの最初の出会いでした。その後、2003年にAPに転じて、これまでに12件の案件に携わり、現在の担当投資先は7件です。セクターカバレッジとしては、主にテックと法人サービス、ヘルスケアを担当しております。よろしくお願いいたします」

鈴木 「次に、秦さん、お願いします」

秦氏

秦 由佳(はた・ゆか)

慶応義塾大学環境情報学部卒、HEC経営大学院(フランス)でMBA取得。
ニッセイアセットマネジメントでプライベート・エクイティ投資の共同ヘッドとして、欧州中小型バイアウト、GPマイノリティ出資、セカンダリー、国内VC投資を主に担当。野村アセットマネジメント及び野村プライベート・エクイティ・キャピタル(NPEC)に9年間在籍し、投資委員会メンバーとして、NPECが運用するファンド及び口座のグローバル投資案件の評価・意思決定に携わると共に、アジアのチームヘッドとしてアジア地域のプライベート・エクイティ・ファンドの発掘・分析・関係構築を担当。2020年7月産業革新投資機構に入社。

 「産業革新投資機構(JIC)の秦です、よろしくお願いいたします。

 私は1996年、ジャフコに女性キャピタリスト第1号として入社しました。当時は『日本合同ファイナンス』という名前だったので、親には『一体どんな会社に就職するんだ』と反対されたり(笑)、大変な時代でした。

 外資系の投資顧問を経て、海外でMBAを取得した後に、みずほコーポレートバンクのロンドン法人に入社し、LP投資の世界に入りました。2007年に日本に帰国して、野村アセットマネジメントに入社し、その子会社で、本格的に日本でゲートキーパー*業務に携わりました。

 その後、ニッセイアセットマネジメントにて、プライベート・エクイティ投資の共同ヘッドとして、欧州中小型バイアウト、GPマイノリティ出資、セカンダリー、国内VC投資を主に担当しました。現在は、リスクキャピタルの供給を通じた日本の産業競争力の強化や、PE・VC投資のエコシステムへの醸成に貢献することを志して2020年にJICに入社し、一からチームを立ち上げて現在に至ります」

*投資家のためにPE投資やヘッジファンドなどのオルタナティブ投資に関する評価やアドバイスを行う専門家。

鈴木 「秦さんは現職では主にVCファンドへの出資を行っておりますが、PEファンドを担当されていた豊富な経験をお持ちですので、LP業界の代表として本日ご参加いただいています。続いて、ベインキャピタルの小林さん、お願いします」

小林氏

小林 隆人(こばやし・りゅうと)

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。ハーバードビジネススクール経営学修士(MBA)。三菱商事生活産業グループ、アクセンチュア戦略グループを経て2008年ベインキャピタル・ジャパン入社。2018年マネージングディレクター。

小林 「ベインキャピタルの小林です。よろしくお願いします。私は1999年に三菱商事に入社し、その後アクセンチュア戦略コンサルティング、MBAを経て2008年にベインキャピタルに参画しました。2008年はちょうどGFC(世界金融危機)の真っただ中で、入った直後に最も深い谷が来まして、最初の一年は世界経済が混沌としたタイミングでしたが、その後世界経済が回復していくなかでベインキャピタルも日本で数多くの投資を実行してまいりました。私は主にコンシューマーリテールとヘルスケア業界での投資を担当してきており、足元でいうと介護業界最大手のニチイ学館、大阪のドラッグストアチェーンのキリン堂ホールディングス、直近エグジットしました大江戸温泉物語を担当しております。

 この十数年を振り返ると、日本のPE業界は他の先進国に比べて社会的な役割が小さいといわれてきましたが、ここ数年はかなり大きく市場が変化し、PEも市民権を得て、経済の潤滑油としての役割としても大きくなっていく局面を迎えていると思っておりますので、本日のディスカッションを楽しみにしております」

鈴木 「ユニゾン・キャピタルの片柳さん、お願いします」

片柳氏

片柳 淳子(かたやなぎ・じゅんこ)

早稲田大学政治経済学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社し投資銀行業務に従事。2006年IESE Business SchoolでMBAを取得後、ユニゾン・キャピタルに参画。2019年よりパートナー。

片柳 「よろしくお願いします。私がユニゾンに入ったのは2006年で、今年で16年になります。私は2001年、新卒でモルガン・スタンレー証券に入社して投資銀行業務に従事しました。2年目ぐらいから上司と2人でスポンサーカバレッジのはしりのようなチームを作って、あちこちのファンドに営業に行きました。その時にPEファンドに興味を持ったのですが、いったん退職してMBAに行くことにし、あいさつ回りでユニゾンに行ったら、現在のユニゾンの林(竜也)代表に、『戻ってきたらうちに入ればいい』と言われて。当初は欧州に残ろうかと思っていたのですが、結局東京に戻ることになり、そのままユニゾンに入りました。当時のユニゾンはまだ2号ファンドの運用をしている頃で、業界の役割分担もなかったのですが、ここ10年はヘルスケアの案件を担当することが増えています」

II. 最近の PE ディールの環境、投資手法の変容・傾向

PEファンドによるグロース投資

鈴木 「ありがとうございます。最近のPEディールの環境を概観しますと、事業承継、MBOを含むゴーイングプライベート案件、大企業・上場企業のカーブアウト案件は日本市場にも定着し大型案件も登場しており、新しいファンドも生まれているなど業界全体の裾野も広がっていて、総じて堅調のように見受けられます。そのような中、比較的新しいテーマとして注目されているのが、PEファンドによるグロース投資です。

 日本プライベート・エクイティ協会の作成資料によると、グロース投資はレイターステージのスタートアップ企業に対する新規エクイティ投資と定義されています。バイアウトとの比較で言うと、バイアウトが成熟企業の企業価値向上を目指すのに対して、グロース投資は成長資金の提供という違いがあるとされてます。PEファンドの関係者とお話をしていると、グロース投資に対する関心の強さは以前に比べると強まっているようにも感じます。そこで、PEファンドによるグロース投資が実際に増えているのか、増えているのだとするとその背景に何があるのか、あるいは今後の可能性、ベンチャーキャピタル(VC)が競合相手になるのかといった点をお聞きしたいと思います。まず、市川さんはどのようにお考えですか」

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング