[M&A戦略と会計・税務・財務]

2024年8月号 358号

(2024/07/09)

第203回 ESGへの取り組みの企業価値への影響:2023年のデータに基づく考察

森 隼人(PwCアドバイザリー合同会社 パートナー)
森 茂博(同 パートナー)
吉賀 裕泰(同 シニアマネージャー)
秋元 崇志(同 シニアマネージャー)
周 思寒(同 マネージャー)
三浦 亘(同 シニアアソシエイト)
井上 茉美(同 シニアアソシエイト)
  • A,B,EXコース
はじめに

 「企業によるESGへの取り組みは企業価値を向上させるのか」

 これまでの企業価値評価は、主に経済価値・財務価値に着目したものが一般的であった。しかし近年、一部研究において企業によるESGへの取り組みと企業価値の関係性をポジティブに結論づけるものも出てきており、環境価値や社会価値といった非財務情報をもとにした新たな価値の概念の重要性が増してきている。その一方で、非財務情報の定量化に向けたアプローチや手法は発展途上の段階にあり、今まさに各国の研究機関や企業において議論が進められている。

 こうした状況のなか、PwCは2022年12月に企業におけるESGへの取り組みが企業価値に与える影響を企業価値評価の観点から分析した記事を寄稿している(「ESGへの取り組み(ESGスコア)の企業価値への影響に関する考察」MARR Online [M&A戦略と会計・税務・財務]2023年1月号 339号)。本稿は前回の寄稿を当時と同様のアプローチに基づいて内容をアップデートしたものである。

前回の記事の振り返り

前回記事の概要

 前回寄稿した記事では、企業のESGへの取り組みと企業価値の関係性を見い出し、企業のESGへの取り組みの有効性について考察した。そこでは、グローバルな上場企業を対象に、ESGスコアと資本コストの計算におけるベータの関係性について、統計的アプローチを使った分析・検証を実施した。具体的には、業界区分として世界産業分類基準(GICS)における主要11セクターを用い、セクター別にESGスコア(総合スコア)とアンレバードベータの相関係数(ピアソンの積率相関係数)および相関係数の有意性(p値)を求め、2019年度と2014年度を基準年度として相関の有無の検証を行った。また、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の、それぞれのESGスコアとアンレバードベータの関係についても同様の分析を実施した。

 その結果、BtoC事業を主とする、比較的個人消費に近いと考えられる「Communication Services」、「Consumer Staples」、「Health Care」の3セクターにおいて、ESGスコアが高いほどアンレバードベータが低くなる相関が示された。それ以外のセクターについては、前回寄稿時の段階ではESGスコアとアンレバードベータの相関関係は見られなかった。

今回のアプローチの概要

 本稿では、基本的には前回と同様のアプローチに基づき、企業のESGへの取り組みが企業価値に与える影響について分析を実施する。



■筆者プロフィール■
森 隼人(PwCアドバイザリー合同会社 パートナー)
2003年にPwCへ入社後、バリュエーションおよび財務モデリングを中心とした業務に20年超にわたり従事している。直近では、ESGデューデリジェンスを含むESG関連業務についてもリードしている。また、PwCオーストラリア・パース事務所及びPwCマレーシア・クアラルンプール事務所への出向経験を有し、多様なクロスボーダー案件の経験を有する。
日本公認会計士、米国公認会計士(デラウェア州)

森 茂博(同 パートナー)
2007年にPwCへ入社後、財務デューデリジェンス業務に従事し、現在はM&Aにおける株式価値評価や資産負債の価値評価等のバリュエーション業務を中心としたM&Aアドバイザリー業務に従事。また、投資評価におけるハードルレートの設定のための資本コスト分析業務や、新規プロジェクト等の投資評価のための財務モデリング業務、データアナリティクス業務にも多数関与。
日本公認会計士

吉賀 裕泰(同 シニアマネージャー)
2008年にPwCへ入社。以来、トランザクション目的および財務報告目的の各種評価業務(事業価値評価、優先株式・新株予約権評価、貸付債権の評価業務)に従事している。PwC入社以前は大手金融機関にて、金融工学的手法を活用した事業リスク・為替リスクの定量化に関するコンサルティング業務、リアル・オプション手法を活用した投資意思決定支援業務等に従事した経験を有する。
日本証券アナリスト協会検定会員

秋元 崇志(同 シニアマネージャー)
証券会社および信用格付会社において審査・信用力分析業務に従事した後,PwCへ入社。現在は財務戦略策定支援やESG・脱炭素関連戦略立案・実行支援等に従事。

周 思寒(同 マネージャー)
米系コンサルティングファームにおいてデータウェアハウス構築、AIの活用したデータ分析業務に従事した後、PwCへ入社。現在は財務デューデリジェンス、経営ダッシュボード構築、電力市場の分析業務などに従事。

三浦 亘(同 シニアアソシエイト)
大手金融機関でのリテール業務、米系コンサルティングファームでの訴訟規制対応関連のエコノミックコンサルティング業務、米系大手会計事務所でのフォレンジック・バリュエーション・エコノミックアドバイザリー業務に従事後、PwCへ参画し財務戦略・ESG関連施策の立案支援や社会的インパクト評価業務等に従事。

井上 茉美(同 シニアアソシエイト)
国内通信事業会社において財務経営企画に所属、法人事業全体および子会社・関連会社の予実管理や子会社・関連会社への追加出資の検討等に従事した後、PwCへ参画し、ESG関連支援等に従事。

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    森 茂博(PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター)
    中尾 宏規(PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター)
    北山 隼地(PwCアドバイザリー合同会社 マネージャー)
    秋元 崇志(PwCアドバイザリー合同会社 マネージャー)
    周 思寒(PwCアドバイザリー合同会社 シニアアソシエイト)

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