[M&A戦略と会計・税務・財務]

2022年3月号 329号

(2022/02/09)

第174回 「新しい資本主義」と令和4年度税制改正

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. 「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現を目指す経済政策

 2021年12月24日、当初予算案としては過去最大となる令和4年度予算案(一般会計107兆5964億円)が閣議決定された。感染拡大防止と 中長期的な課題(デジタル社会・グリーン社会、活力ある地方、少子化対策など全世代型社会保障制度等)への対応を図った令和3年度当初予算(一般会計106兆6097億円)をも上回る大型予算である。

 令和4年度予算案は、新型コロナ感染拡大防止対策を含む社会保障関連支出(一般会計の33.7%)に最も大きなウエイトを置いている点では令和3年度予算と同様(一般会計の33.6%)である。一方で、令和3年度予算が、グリーン社会の実現に向けた企業のカーボンニュートラルへの取組や、再エネ・省エネ等の研究開発・導入への支援、及び官民のデジタル化の促進を掲げていたのに対し、令和4年度予算案では、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現の成長・分配戦略として、「科学技術立国」及び「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた未来投資、給与の引き上げ、人材投資等を掲げる(図表1参照)。

図表1 「令和4年度予算のポイント」

 令和4年度予算案は、2021年に11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(以下、「令和4年度経済対策」)による支出55.7兆円を(予算案の)歳出に含むものであり、令和4年度経済対策の経済効果(GDPの下支え・押上げ効果)は、5.6%程度と算定されている。これは、菅政権下での令和3年度経済対策(「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」)の3.6%を大きく上回る。

 この背景には、菅政権下では感染拡大が進行し、「主要先進国に比べ回復局面における成長率が低く、コロナ前の経済水準に回帰する時期が遅れると見込まれており、民間投資を大胆に呼び込むなど民需主導の持続的な成長軌道の実現に向け、長年の課題である成長力の強化が不可欠。」(「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」)とされた状況であったのに対し、岸田政権への移行前より感染が激減し(1日の感染者数が2021年8月中下旬の2万5000人台から10月上旬の1000人以下に減少)、「ウィズコロナの下で、一日も早く通常に近い社会経済活動の再開を図る。「新しい資本主義」を起動し、成長と分配の好循環を実現して、経済を自律的な成長軌道に乗せる。」(令和4年度経済対策)とする状況の違いがある。


2. 「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現を目指す経済政策

 岸田政権は、成長と分配の好循環を実現する新しい資本主義の実現を経済社会のビジョンとして掲げる。第205回国会における岸田総理大臣所信表明演説では、経済方針における三つの政策(第一の政策 新型コロナ対応、第二の政策 新しい資本主義の実現、第三の政策 国民を守り抜く、外交・安全保障)を明らかにした。核となる新しい資本主義の実現は、

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