[視点]

2022年6月号 332号

(2022/05/13)

M&A仲介手数料問題の一端をデータで考える

丸山 宏(愛知産業大学 経営学部 教授・経営学部長)
  • A,B,EXコース
老舗料亭の親族外事業承継

 地元の新聞では2020年1月に報じられているが、名古屋の老舗料亭「蔦茂」が大垣市の食品会社によって買収されていた。「後継者不在」が理由とされていた。

 蔦茂は、創業家である深田家が、江戸初期、大和郡山から三河の岡崎に移り住み、現在に続く丸石醸造を創業し、その一族が尾張で新田開発等の事業を展開し、大正初期に名古屋市中区住吉町(現栄3丁目)で料亭・旅館の創業に至ったという、長い歴史をもつ(注1)。私も、三河ルーツの尾張名古屋育ちであり、5年前に横浜の大学から名古屋市中区古渡界隈に法人本部、岡崎市に大学キャンパスをもつ学校法人に所属を変えたこともあって、浅からぬご縁を感じている。2018年には、趣のある数寄屋造りの建物の一室で、身内の祝い事をさせていただいた。それからほどなくして、ビルへの建て替え・移転を知り、そして親族外事業承継の報道に接したわけであるが、関連情報を総合すると、建物の建て替えを含め、蔦茂の深田正雄社長(現会長)のご深慮に基づいた、理想的な親族外事業承継と言うにふさわしい事例であり、納得できる事業承継を実現させるためには十分な準備が必要とされるということを痛感させられた。

 ところで、この蔦茂の親族外事業承継の仕組みに関して注目される点は、深田会長がM&A仲介会社とではなく、もっぱら売り手をサポートするアドバイザリー会社と支援契約を結ばれていたことである。日頃の経営活動を通して、株式譲渡先候補がある程度絞られていたことなども背景にあったようである(注2)。

 M&A取引における仲介会社の両手取引については、2年ほど前から、とくに中小企業のM&Aの仲介取引を中心に利益相反性が問題視されるようになってきた。一方、代表的なM&A仲介会社は、仲介会社の企業売買市場における役割とそれに見合う報酬の妥当性を主張している(注3)。

 この対立する2つの主張について、親族外事業承継のM&A案件に焦点を絞り、当事者以外にも入手可能なデータのシンプルな計量分析に基づいて検討することが小稿の目的である。

M&Aによる親族外事業承継データの概観

 レコフM&Aデーベースおよび『MARR』を利用し、2002年-2021年の期間に行われた国内企業による国内企業の買収(IN-IN型)案件を対象として、「後継者難」、「後継者不在」等のキーワードによる検索・収集を行い、買手上場企業、買手非上場企業、事業(営業)譲渡に区分して集計した。

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