[特集インタビュー]

2017年10月号 276号

(2017/09/15)

ドローン特化型ファンド設立を機に「後進国日本」に革命を起こす

 千葉 功太郎(Drone Fund / General Partner 兼 Chief Dronist)
  • A,B,EXコース

千葉 功太郎

  ドローン(小型無人飛行機)はもともと軍用として始まったが、今ではさまざまな産業分野での活用が期待されており、「空の産業革命」とまで言われるようになった。こうした中、日本初のドローン・スタートアップ特化型の投資ファンド「千葉道場ドローン部1号投資事業有限責任組合」(以下、ドローンファンド)」が6月1日に立ち上がった。このファンドのゼネラルパートナーとなっている千葉功太郎氏はオンラインゲームの開発・運営を行うコロプラの元取締役副社長であり、慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアムの上席所員も務めている。千葉氏が何故、ドローンファンドを立ち上げたのか。そこには日本のドローン産業への強い危機感があった。

日本初のドローン・スタートアップ特化型の投資ファンド

-- 日本初のドローン・スタートアップ特化型の投資ファンドを立ち上げられたわけですが、千葉さんがドローンと出会ったのはどのようなきっかけだったのですか。

「私がコロプラに在籍していた2015年の3月だったと思いますが、モバイル向けコンテンツの制作などを手掛けている株式会社ORSOの坂本義親社長がドローンを持って遊びに来られたのです。坂本さんは当時からドローンの事業をやっておられたのですが、私は、ドローンを実際に見たこともないというレベルでした。その時に、坂本さんからドローンの面白さをプレゼンしていただいたうえ、帰り際に練習用にと小型のドローンをいただきました。そのドローンを一生懸命練習しているうちにドローンの面白さにはまってしまったというのがきっかけです。

  その後私は、坂本さんも参画しておられる慶應義塾大学SFC研究所による『ドローン社会共創コンソーシアム』の設立に関わる機会を得ました。このコンソーシアムは、15年12月25日に慶應義塾大学SFC研究所を拠点に設立され、特に日本国内での人材開発を推進することが目的で、ハード・ソフト技術や法律、安全保障などを含む多様な研究者が参画し、ドローンを活用する社会で必要となる応用研究を行おうというものです。研究チームはインターネットやIoTの第一人者である村井純氏、安全保障問題のアナリストの神保謙氏などの慶應義塾大学の教授陣のほか、最先端のビジネスパーソンなど、24人の専門家で構成されています。

  こうした活動を通じて、初めは単に“楽しい”という理由で趣味として飛ばしていたドローンへの私の理解も認識も深まっていきまして、海外ではドローンがさまざまな産業分野で活用されている中で、日本でドローンのスタートアップ企業が育っていない現状を何とかしなければと思うようになったのです」

「ドローン後進国日本」への危機感

-- 米国の市場調査会社、ガートナーが公表したドローンの市場レポートによると16年における民間用ドローンの売上金額はグローバルで約45億ドル(約5113億円)。20年には、そのほぼ2倍の112億ドル(1兆2725億円)に達するという予想が出ていますね。

「関連業界を含めたマーケットはもっと拡大すると思います。PwCのレポートでは、社会基盤、輸送、保険、映像、通信、農業、警備、鉱業の8つの分野における産業規模を将来的に約13兆円という試算も出されています」

-- 日本のドローン産業の位置づけは?

「インプレス総合研究所の『ドローンビジネス調査報告書2017』では、16年度の国内のドローンビジネス市場規模353億円(前年度比102%増)、22年度には2116億円に拡大するとしていますが、日本はドローン後進国といっていい状態です。ドローンの機体製造では中国・深圳市で06年に立ち上げられたドローンメーカーDJIが今では世界最大手で、世界の民間ドローン市場の70%を占めています。その他のメーカーではParrot(フランス)、3D Robotics(米国)といったところで、日本企業の存在感は無いに等しい状況です」

-- 千葉さんをファンド設立へと突き動かしたものは何だったのですか。

「私自身は、01年にソーシャルゲームの開発を行っているKLabの取締役に就任し、08年に今申し上げたコロプラに参画して取締役副社長に就任した後、16年7月に退任しまして、その後は金融庁から適格機関投資家の認定を受けて個人投資家としてベンチャー企業の支援を行ってきました。現在、シリコンバレーのベンチャーを含めて国内外約50社に投資しているほか、VCにもLPとして20ファンドに投資させていただいています。

  ドローンについては、当初は趣味としてとどめておこうと思っていたのですが、起業家であり、投資家で、ドローンの趣味を深く持っている人間が私ぐらいしかいなかったものですから、ドローンベンチャーの投資案件が自然に私のもとに集まるようになってきたのです。そこで、1社、2社、3社と個人投資をしていったのですが、それでもどんどん集まって来るようになりました。

  千葉功太郎個人の、投資家としてのポートフォリオがありまして、アグリテックの分野であったりインバウンドの分野などいくつか重点領域を決めてポートフォリオを組んでいます。そしてそれぞれの分野で5~6社に投資しているわけです。ですから特定の分野だけに例えば20社に投資するというのは私のポートフォリオのバランスが崩れることになります。そこで、『ドローン投資はこれ以上しません』と言って断ろうかと悩んだのですが、ドローン市場が中国や米国などでどんどんと盛り上がる中、日本では誰もドローンベンチャーに積極的なリスクマネーを投資する方がいらっしゃらなかった。フランスでは既に1200社を超えるドローンのスタートアップ企業が生まれているという状況の中で、このままでは世界で戦えるドローン企業が日本から出てこないのではないかという危機感が生まれて、それなら同じ危機感を共有できる投資家のお金をお預かりして、私が代わりに投資をしましょうということで踏み切ったのです」

投資家のネットワークを構築

-- ドローンファンドの規模と、LPとしてはどういったところが出資しているのですか。

「1号ファンドは今年の9月を最終クローズとして約10億円を予定しています。LPとしては、Mistletoe代表取締役社長兼CEOの孫泰蔵さんはじめ、個人著名投資家の方がメインとなっていますが、大手企業の関心も強いですね」

-- 1社当たりの投資額はどれくらいを考えていますか。

「1社あたり数百万~1億円程度を出資していく方針です。既に、私が個人で投資してきたドローン関連のスタートアップ企業6社*を1号ファンドへ移管しました。そのほか現在7社*への投資が実行されています。最初のシードアーリーへの投資リスクを取って、そこから頭一つ出るところまでを私が担当し、投資先が育っていってシリーズA、シリーズBという数億円単位の調達が必要となった段階では、このドローンファンドでは残念ながら大型出資はできませんから、その先は著名な投資家で、自らファンドを設立して大規模に投資をされている方がおられますので、そういったところにバトンタッチしていきます。そういうネットワークを15人くらい作ろうと思って活動している最中です。それによってさらに事業が拡大して行けば今度は大企業によるM&Aも出てくると思います」

*Dron ë motion(地域創生空撮パッケージ提供)、iRobotics(24時間飛行ドローンを使った大規模システムインテグレーター)、Drone Japan(米に特化した農業リモートセンシング)、ドローンデパートメント(ドローン特化型人材の派遣および紹介事業)、CLUE(遠隔制御Iotデバイス&クラウド)、エアリアルラボ(1人乗り有人ホバーバイク開発)、かもめや(離島向け陸海空ドローン・総合管制システム開発)、Drone Impact Challenge(国内ドローンレース運営)、DRONE IP LAB(ドローン専門特許共同出願企業)、Yodayoda(非GPS環境での自己位置推定システム開発)など。

「千葉道場」のドローン版も開催

-- 具体的に、どのような支援体制でスタートアップ企業をサポートしていかれますか。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング