[M&A戦略と会計・税務・財務]

2018年4月号 282号

(2018/03/15)

第130回 東南アジアに進出する日本企業が直面する不正リスクとその対応

 吉川 英一(PwCタイ シニアマネジャー)
  • A,B,EXコース

1. はじめに

  東南アジア諸国(ASEAN5<注1>)における日本企業の対外直接投資額は、2014年以降減少傾向にあるものの、直近2017年を国別で見るとタイ、インドネシアやベトナムでは回復基調であり(注2)、東南アジア諸国が日本企業にとって引き続き重要な投資先であることが見て取れる。将来的にも米国を除くTPP(環太平洋経済連携協定)の発効や、インドネシアやフィリピンでの人口増加による内需拡大等から、東南アジア地域へのさらなる対外投資も増加するだろうと予測される。

地域別・日本の対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)

  特に、タイは、日本企業による対外直接投資額が2016年から2017年にかけて約19%伸びており、また、タイ対内直接投資総額の47%である1330億バーツ(4667億円(注3))を日本企業が占めている(注4)ことからも、日本企業の経済的存在感は依然として大きいことが分かる。さらには、タイ政府による新たな経済政策の「Thailand 4.0」では、その一環として新たなターゲット産業が育成されることが決定し、その実現のために敷かれた「東部経済回路(EEC)」の指定や過去最大の投資奨励制度の発効等からも、日本からのタイへの直接投資額は2018年以降も成長を続けると考えられる。

  日本企業が東南アジア諸国に対して、継続的に投資する一方で、多くの企業が直面する課題の一つに不正リスクというものがある。筆者の2016年1月号の前回記事(注5)では、「東南アジア企業への投資におけるリスクと対応」と題してアジアへの投資時に発生しうるリスクを主に汚職・贈収賄という視点から解説した。本記事では東南アジアで事業を展開する企業が直面している不正の現状および、その不正に立ち向かうための心構え並びに対応について解説する。

2. 東南アジア諸国における不正の現状

  PwCが2016年に発表した「PwC世界経済犯罪実態調査2016」によると、26%の回答者が過去2年以内に東南アジア諸国(注6)で不正が発生したと回答した。本調査は回答者数ベースであるため一概には言えないものの、約4社に1社の割合で何らかの不正が発覚していることになる。

  不正の種類としては、

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング