[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2018年5月号 283号

(2018/04/16)

第157回 旅行業界 事業再編・M&A件数が増加

~ネットの普及、インバウンド増加で事業環境が激変

 加藤 美幸(レコフデータ)
  • A,B,EXコース

1.旅行業界概況

(1)旅行市場


  旅行市場は日本人による海外旅行、及び、国内旅行、そして外国人による訪日旅行(インバウンド)に大別される。

  海外旅行者数は1964年の海外旅行自由化を経て、1970年代初頭から急増し、団体旅行やパッケージツアーの増加などによって2000年までは緩やかに増加を続けた。しかし、その後は年1700万人前後(注1参照)を横ばいで推移。背景としては米国同時多発テロ発生に代表されるような、ともすれば海外情勢の安定性を脅かすような事件が増加したことや、国内でのエンタテインメント増加などに伴う若者の海外旅行離れ、また、牽引役として期待されていた団塊世代がリタイアせず労働を継続するケースが想定以上に多いことなどを指摘する声がある。

  また、国内旅行者数も2005年は延べ人数で2億人を上回っていたが、2010年以降は1億7000万人前後を概ね横ばいで推移(注2参照)。理由としてバブル崩壊以降減少した企業主催の職場旅行が復活してこないことや、少子化により修学旅行が減少したこと、また、所得の伸び悩みに伴い消費者の財布の紐が固くなったことが挙げられている。

  一方で、2012年に836万人であったインバウンドは2017年には2869万人に増加。観光対象として日本の歴史、文化、食、また、消費対象として品質の高い日本製品やサービスに外国人の関心は高まっていると言われている。これにビザ取得の要件緩和、新興国での所得の増加、円安、格安航空会社就航などが加わり、インバウンド増加を促したと考えられる。

(2)旅行会社

  旅行者へのプラン提供を事業とする旅行会社は約1万社に上る。会社数が多い一因は、一定の営業保証金と基準資産額を満たせば営業可能な制度が敷かれており参入障壁が低いためだ(日本の旅行業の登録制度概要については国土交通省観光庁ウェブサイト参照http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/ryokogyoho.html)。

  業界の主要企業数十社については観光庁から年度ごとに各社ごとの旅行取扱額が発表されている(注3参照)。2016年度の主要企業合計は5兆5656億円で前年度比2.3%低下しており、企業の顔触れが年度単位で変わるため連続性には欠けるものの、ここ10年間ではリーマン・ショック翌年度の5兆5403億円(2009年度)に次ぐ低水準である。

  主要企業総取扱額(2016年度)を旅行者別にみた場合、日本人の国内旅行は59.8%、海外旅行は36.6%を占めているが、インバウンドは3.6%にとどまっている。インバウンドでは主に海外の旅行会社が利用されるため、現状、日本の旅行会社はインバウンド増加の恩恵を十分には受けていないという。一方で取扱総額の96.4%を占める日本人による旅行の伸び悩みは旅行会社にとって悩みの種になっていると思われる。

  ここで取扱額上位5社をみると、業界トップのJTBを筆頭に鉄道会社系で歴史のあるKNT-CTホールディングス(旧近畿日本ツーリスト)、日本旅行(西日本旅客鉄道子会社)と、新興勢力とも言えるネット系の楽天、格安航空券販売で成長したエイチ・アイ・エスが混在している(図表1参照)。

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