[対談・座談会]

2023年3月号 341号

(2023/01/31)

[座談会] M&A法制の実務と未来を展望する――「同意なき買収」を巡る諸論点と公正なM&A市場の形成に向けて

【出席者】(五十音順)
石綿 学(森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士)
武井 一浩(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士)

三笘 裕(長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士)

神田 秀樹(学習院大学大学院 教授)(司会)
  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2023年3月号 通巻341号(2023/2/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
上段左から石綿 学氏、武井 一浩氏、下段左から三笘 裕氏、神田 秀樹氏

上段左から石綿 学氏、武井 一浩氏、下段左から三笘 裕氏、神田 秀樹氏

<目次>
はじめに~「同意なき買収」を巡って
  1. 同意なき買収と対抗措置に関する近時の裁判例
    • 「2005年指針」以降の経緯と、ブルドックソース事件決定の先例性
    • ブルドックソース事件とニッポン放送事件
    • 企業価値基準と権限分配論
    • 事前警告型買収防衛策の意義
    • 東京機械製作所と三ッ星事件の事案の違い等
    • ウルフパック戦術による共同協調行為
    • 東京機械製作所事件と三ッ星事件の教訓
    • 強圧性の概念とその問題について
    • 企業価値基準と現行の権限分配論との不整合
  2. 株主意思確認総会の意義とMOM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)についての考え方の整理
    • 株主意思確認総会とMOM
    • 株主共同の利益の保護を考える主体
    • MOMは日本特有の仕組みではない
    • 第二新株予約権方式と対抗措置の相当性
  3. 日本の資本市場を巡る状況
    • 小規模の会社が多い上場市場
    • 株式市場の現実~買収者の類型やパッシブな機関投資家
    • 株式市場の「質」の問題
    • 欧州型の実質株主把握制度
  4. より一般的な制度的課題~ヨーロッパ型の法形成の可能性、実質株主問題、大量保有報告制度とTOB制度の問題点
    • 必ずしも守られていない大量保有報告制度
    • M&A専門機関の必要性
    • 公開買付制度の見直しの方向感

おわりに~M&A法制の今後のあり方

はじめに~同意なき買収を巡って

神田氏

神田 秀樹(かんだ・ひでき)

1977年東京大学法学部卒。1977年東京大学法学部助手、1980年学習院大学法学部講師、1982年学習院大学法学部助教授、1988年東京大学法学部助教授、1991年東京大学大学院法学政治学研究科助教授、1993年東京大学大学院法学政治学研究科教授。2016年に東京大学を退職し、同年から学習院大学大学院法務研究科教授、東京大学名誉教授。

神田 「本日は、『M&A法制の実務と未来を展望する』というテーマで議論をしていただきます。

 まず第1に、一般的には敵対的買収と呼ばれる『同意なき買収』についてです。2021年から2022年にかけて重要な裁判例が出されていますので、それを中心に議論していただきます。

 そして第2に、その背景となる市場の状況、上場会社が置かれている状況、株式市場においてどういう種類の投資家がどういう行動をしているのか、といった点を議論していただきます。また第3は、M&Aに関する制度的な課題や立法論的な課題についてご意見を伺います。以上を踏まえ、M&A法制の実務は今後どうなっていくのか、どうなるのが日本社会にとって望ましいのかという点についても話し合えたらと思います」

1. 同意なき買収と対抗措置に関する近時の裁判例

神田 「まず、同意なき買収と対抗措置に関する近年の裁判例についてです。

 資料に示した通り、ブルドックソース事件(2007年)以降、同意なき買収に対する対抗措置が発動されたケースはほとんどありませんでした。しかし、2020年1月、東芝機械(現芝浦機械)が臨時株主総会において防衛策の導入・発動の承認を決議し、買収者であるシティインデックスイレブンスはその後、TOBを撤回しました。これは裁判にはなりませんでしたが、『半有事』防衛策などと呼ばれ、話題になりました。その後、2021年に日邦産業事件、日本アジアグループ事件、富士興産事件、そして東京機械製作所事件があり、いずれも裁判所で、対抗措置としての新株予約権無償割当ての差止めの仮処分の可否が争われました。そして、2022年の三ッ星事件では、最高裁が新株予約権無償割当ての差止めを認めた高裁決定を是認する司法判断を下しました。

【図表】 対抗措置としての差別的新株予約権無償割当ての適法性に関する裁判例

買収防衛策を巡る司法判断が下された近年の事例

買収防衛策を巡る近年の事例(裁判例以外のもの)
(出所)経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」資料(2022)

 買収者の手法としては、公開買付(TOB)と市場買増し(市場買い上がり)があります。東京機械製作所と三ッ星事件の2つの事件では、40%程度まで市場買増しがされました。これに対する新株予約権無償割当ての『対抗措置』は『半有事』導入防衛策などと呼ばれています。

 この対抗措置には、事案によって『導入』と『発動』のタイミングに違いがあります。例えば、同意なき買収者が登場した後に買収防衛策を導入して発動する際、導入した後に買収者の何らかの行動があって発動する場合と、導入後に買収者の行動は何もなくても対抗措置を発動する場合とのパターンがあります。

 このようにタイミングの違いがあるのですが、現在では、できるだけ早い時期に『株主意思確認総会』と呼ばれる会社法上の株主総会ではない株主総会において、昔は『勧告的決議』などと呼ばれていた株主意思の確認をするのが、一般的な実務になっています。

 また、ブルドックソース事件の時との対抗措置の設計の違いについて触れておきます。ブルドックソース事件ではブルドックソースが買収者(スティール・パートナーズ)に経済的な損害を現金で払いました。その後の議論を踏まえ、第二新株予約権の交付という形で、例えば20%まで(あるいは導入をした時点における買収者の持分まで)というように、一定範囲までは株式に換え得る損害軽減措置を講じるケースが多いと思います。別の言い方をすれば、一定範囲までは補償をするが、それ以上はしないという設計です。

 表の中で、裁判所で差止めの仮処分が最終的に確定したのは、日本アジアグループ事件と三ッ星事件です。日本アジアグループ事件の特徴は、株主意思確認総会を開催しておらず、取締役会で導入して、かつ発動していることです。三ッ星事件は株主意思確認総会を開いた事案でした。なお、東京機械製作所事件は有名な事案ですが、株主意思確認総会で通常の普通決議ではなく、買収者と経営者の株式保有分を除いた残りの株主の多数の賛成を取りました。

 まず、これら近年の裁判例について、皆様がどのように見ているか、重要だと思われる点をお伺いしたいです。

「2005年指針」以降の経緯と、ブルドックソース事件決定の先例性

 あらかじめ、これまでの経緯の概略を説明します。同意なき買収の分野では、経済産業省と法務省により、2005年に「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(買収防衛指針)が策定されました。これは平時、すなわち具体的な同意なき買収者が登場するより前に買収防衛策を講じる場合についての指針ですが、考え方として、『株主意思の尊重』が第2原則として挙がっていました。

 それから『有事導入』の2005年のニッポン放送事件の東京高裁決定、それから2007年のブルドックソース事件の地裁・高裁を経ての最高裁決定がありました。ニッポン放送事件では、後に『機関権限分配法理』などと呼ばれるようになりましたが、取締役会決議だけでどこまで対抗措置が講じられるのかが焦点になりました。

 そして、ブルドックソース事件では、有事導入型における対抗措置のいわゆる『必要性と相当性』です。これは、企業価値を毀損するものなのかどうかが対抗策の必要性を基礎付ける、その疎明責任に関するルールで、最高裁は、必要性については株主総会決議があれば疎明責任は転換する(事実上の推定)との見解を示しました。しかし、相当性は、株主総会決議があっても裁判所が中身を審査するという枠組みです。かつ、会社法上の条文との関係では、『株主平等原則違反』(会社法247条1号)といわゆる不公正発行と呼ばれている、新株予約権無償割当でいえば『新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合』(会社法247条2号)の類推適用を本案とし、民事保全法の23条2項の仮処分命令の発出を求めるという形で裁判になるという姿が、現在の日本のこの分野を形成している判例法といえるかと思います。

 以上を踏まえ、まず2005年の指針、ニッポン放送事件あるいはブルドックソース事件の決定の先例性、これらが最近の裁判に与えている影響、といったあたりからお聞きしたいと思います」

ブルドックソース事件とニッポン放送事件

石綿氏

石綿 学(いしわた・がく)

森・濱田松本法律事務所パートナー(日本及びニューヨーク州弁護士)
東京大学大学院法学政治学研究科客員教授(2019-2022年)
東京大学法学部卒業。シカゴ大学ロースクール(LL.M.)卒業。M&A/企業再編、コーポレートガバナンス、危機管理を含む会社法務全般を取り扱う。経済産業省の「企業価値研究会」委員、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」委員などを務めた。『公正なM&A の在り方に関する指針』の解説(商事法務2020年、共著)、『日本の公開買付け-制度と実証』(有斐閣2016年、共著)、『M&A 法大系』(第2版)(有斐閣2022年、共著)など著書・論文多数。

石綿 「森・濱田松本法律事務所の弁護士の石綿です。いくつか申し上げたいと思います。

 まず、2005年の買収防衛指針はソフトローですが、平時に買収防衛策を適法に導入するための要件を整理したものです。この指針策定後、基本的にはこれに沿って実務が形成されてきている印象です。神田先生が仰った第2原則のほか、第1原則で『企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則』があります。この点は、よいM&Aか否か、ないしは対抗措置の発動の可否を判断する際の1つのメルクマールとして使われるようになったと考えています。

 買収防衛指針の第2原則に含まれる『株主意思の原則』ですが、その趣旨は、買収防衛策は株主の合理的な意思に依拠していなければいけない、というものでした。この『株主意思の原則』が、その後我が国において、買収防衛策を導入するに際しては株主意思確認総会を経るという実務を生み、対抗措置の発動に際しても株主意思確認総会が重視されるという今日の傾向につながったように思われます。また、総会で導入され、取締役会で発動された日邦産業事件においても、この株主の合理的な意思に依拠した枠組みが用いられております。

 第3原則の『必要性・相当性確保の原則』も、一連の裁判例の根幹を成す要件を成していると考えます。

 次に、ニッポン放送事件については、有事に取締役会のみで対抗措置を発動したケースですが、機関権限分配秩序論をかなり明確に打ち出した点が特徴的です。

 また、ニッポン放送事件においては、主要目的ルールに例外があることを示した点も有意義でした。主要目的ルール自体は、その後の裁判例で多少の表現の異同や調整が入っておりますが、基本的には維持されています。

 他方、ブルドックソース事件は有事に株主総会が対抗措置を発動するという事例で、その必要性・相当性という基準で基本的には判断したのですが、その際に株主総会においてその必要性があると判断した場合にはそれを尊重するという考え方が示され、先ほど神田先生は疎明責任という形で事実を推定される、との趣旨で仰いましたが、その後の裁判によっても承継されています。

 また、ブルドックソース事件で不公正発行について示した判断枠組みは、三ッ星事件等においても参照されています。ブルドックソース事件は、現在においても重要性の高い裁判例です」

三笘氏

三笘 裕(みとま・ひろし)

長島・大野・常松法律事務所パートナー。1991年東京大学法学部卒業。1993年弁護士登録。1998年Harvard Law School卒業(LL.M.)。1998年~1999年Cleary, Gottlieb, Steen & Hamilton LLP (New York)勤務。2004年~2007年東京大学大学院法学政治学研究科助教授。2017年~2022年経済産業省コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会(第2期・第3期)委員。M&A及び企業組織再編、コーポレート・ガバナンス、危機管理など企業法務全般を扱う。

三笘 「長島・大野・常松法律事務所の弁護士の三笘です。

 まず、2005年の買収防衛指針について、重複を避けて申し上げます。指針が出されたのは、まだ日本における買収防衛策の草創期で、当時の議論を整理する上では非常に大きな意味があったものだと理解しています。この指針が出たおかげで、少なくとも事前警告型防衛策が一定程度普及し、それを踏まえさまざまな議論が進展したという功績がありました。

 2005年の指針は、買収者側の規制を強めつつ被買収者側の買収防衛は制限するといういわゆるヨーロッパ型のアプローチではなく、買収者側の規制は緩いままで被買収者側の買収防衛を認めるといういわゆるアメリカ型のアプローチを採用したという理解です。それから20年が経ち、日本にこのアプローチが合っていたのか、いまの段階で再検討すべきだろうと思っています。

 また、2005年の指針では、一定の要件のもとで取締役会限りでも買収防衛策の導入が認められ、かつ有事導入ではなく平時導入を推奨するというトーンでまとめられていました。しかし、最近の事例では、むしろ平時導入よりも有事導入の方がよいとの議論も見受けられますので、最近の議論との整合性、齟齬を検討する時期にきているとも考えています。

 次に、ニッポン放送事件は、裁判所が有事導入の買収防衛に関し、従来からあった新株発行だけでなく、新株予約権の発行についても主要目的ルールが適用されるということを確認した、ということで先例的な意義はあったと思います。裁判所が買収防衛の文脈において取締役会と株主総会との間の機関権限分配論的な議論をするという流れをつくったという意味でも、非常に重要な位置付けです。

 なお、この事件の決定から、いわゆる『ニッポン放送東京高裁四類型』なるものが出てきました。その後、さまざまな文脈で引用されるのですが、この概念の外延や論理的な根拠がよくわからず、実務ではかなり苦慮したという経緯があります。これは、裁判所によるルールメイキングのあり方に関して、問題を提起した事案でもあると考えています。

 そして、ブルドックソース事件については、先ほど石綿先生からご説明があったとおり、その後の三ッ星事件も含めてこの判断枠組みに拠っていると認識しております。

 ただし、ブルドックソース事件自体は、かなり特殊な事案であったという理解ですが、当時は、海外で、この事件を日本の資本市場が特殊で閉鎖的であることを示す実例として取り上げられ、日本へ投資しない口実として使われるという動きもあり、大変残念な思いをした記憶があります。買収防衛が問題になる事件は基本的に仮処分事件になりますが、仮処分事件は、どうしても限られた日数の中での判断になりますので、細かいところであらが目立つところもあるのは、制度の仕組み上、やむを得ないところだと思います」

権限分配論の現在地点

武井氏

武井 一浩(たけい・かずひろ)

西村あさひ法律事務所 弁護士(パートナー) 1989年東京大学法学部卒、96年米国Harvard大学ロースクール(LL.M)卒、97年英国Oxford大学経営学修士修了(MBA)。91年弁護士登録、97年米国NY州弁護士登録。
主な著書(共著を含む)として、「サステナビリティ委員会の実務」(商事法務)、「コーポレートガバナンス・コードの実践[第三版]」(日経BP)、「株主総会デジタル化の実務」(中央経済)、「株対価M&Aの実務」(商事法務)など。

武井 「弁護士の武井です。なお、ほかの皆様も同様かと思いますが、今日の発言は個人の見解であり、属する団体としての見解ではないことは最初に申し上げます。その上で、2005年指針、ニッポン放送事件決定、ブルドックソース事件決定、いずれも20年近くが経っているわけですが、どれも実務に対してとても大きな影響力を持っています。また、2005年指針の前に経産省の企業価値研究会から報告書が公表されており、いわゆる企業価値基準が示されました。企業価値を高める買収を促進する、前へ進めるというのが基本的な考え方で、いまも一般に支持されている基本的考え方であると思います。

 裁判所の判例法は裁判所にこの手の事件が係属しないことには判断が出ません。したがって、まだまだ判例法が示されていない重要な領域はいくつかあります。

 資本市場のグローバル化がより進んでいる中で、企業価値向上に適った買収がなされるインフラには、上場会社法制として見たときに、情報開示法制としての面を含め、資本市場の透明性という性格があります。そしてこの現在のグローバル化している資本市場において、この透明性という論点について、日本が欧米と比較して不透明な状況では色々と問題があります。アメリカ型なのかヨーロッパ型なのかという観点から言えば、ヨーロッパ型は立法論となりますから、ヨーロッパ型の立法がなされていない現時点では、アメリカ型を基本とせざるをえないのが現状となります。アメリカ型は判例法を含め相当、色々なルールができています。前回、2005年指針のときにアメリカの約30年の歴史に一気に追いついたという評価がなされました(たとえばジャック・B・ジェイコブス「買収防衛策に関するデラウエア州の経験に学ぶ―日本での公正な買収ルールの構築に向けて」商事法務1774号(2006年)78頁など)。そこから約20年が経ちまして、色々な環境変化が起きている中で、今、どのような点をアジャストしていかないといけないのかを真摯に考えるべき時期なのだと思います。

 関連する論点が、企業価値を誰がどう判断するのかというポイントです。ブルドックソースの判例では、特定株主による経営支配権取得に伴い会社の利益ひいては株主共同の利益が害されるか否かについては、最終的には、会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであり、裁判所の司法審査も(当該株主の判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵等がない限り)基本的に株主の判断を尊重するとなっています。ただそこにも『株主が判断する対象事項は何なのか』や『株主判断だけでいいのか』などの論点があります。アメリカでは株主総会以外に独立社外取締役を含めた取締役会が一定の役割を果たしています。企業価値はきちんと取締役会が責任を持つべきだという前提があり、しかも権限分配論が戦前戦後の1940年代、1950年代頃に整備され、取締役会に経営の基本的権限を与えています。その上でデッドハンドピルが不公正とされている点で株主意思を反映させています。ヨーロッパも昨今の欧州会社法は、従業員や各種ステークホルダーの利害を考慮する義務を取締役に課す旨を、会社法改正等で明記しています。

 しかし、日本はその権限分配論の議論が、戦前戦後の頃の価値観のままでずっと止まったままです。権限分配論の話は最終的には経営陣、マネジメントの利益相反処理の問題に行きつく話なわけですが、その利益相反処理に当たって、アメリカでは裁判所、独立取締役を含む取締役会、株主総会という3者の役割分担で考えています。しかし、日本は2005年当時、まだ独立取締役が強制されていなかったこともあり、独立取締役から構成される会議体という選択肢が判例法を含めて組み込まれづらかった面があります。しかしこの20年間で日本でも状況が変わり、ガバナンス改革が進められ、独立社外取締役が拡充されています。また資本市場のグローバルな構造変化も激しく、パッシブ運用の増大など株主側の状況も大きく変化しています。以上を踏まえた上で、この権限分配の論点をどう考えていくのかも重要になると考えています。

 もう1点、あとでも議論になるかと思いますが、先ほどの資本市場の透明性と言ったときには、公開買付制度のあり方だけでなく、たとえば欧州が全域で導入している実質株主の把握制度など、他の制度も色々と関連してきます。資本市場の透明性は、ヨーロッパでもアメリカでも色々な法制的手当てがなされていますが、日本では未整備な面があります。

 その上で、今日議論となっている差別的行使条件付新株予約権を活用した仕組みは、買収における一定の透明性を確保するための仕組み、企業価値を高める買収が行われるための透明性確保の仕組みなわけです。そもそもの『買収防衛策』という名前が適切な名前であるとも思われませんが、これらの点は今日の議論の後半で出てくると理解しています。

 以上のような観点を含めて、各プレーヤーの役割分担とその機能に関する論点を含めて、企業価値基準に適った買収のインフラについて、約20年が経過して議論をすべき時期にきているのではないかと思います」

事前警告型買収防衛策の意義

神田 「株主意思確認総会については、日本の特殊的発展になっていますが、後ほど議論したいと思います。

 いまの皆様のお話を伺って追加で聞きたいのが、平時導入型の買収防衛策についてです。結局、買収防衛指針は平時の防衛策についての指針であり、また、裁判になっていないケースも重要です。ただ、実際に裁判になるのは有事の防衛策で、買収者の登場後に有事導入型買収防衛策が導入されて発動します。そうすると、いま日本の実務では平時の防衛策はあってもなくても同じという感覚のような気もします。有事になれば対抗措置を打って勝敗が決まるということでよいのでしょうか。あるいは、平時に買収防衛策を導入しておく意味は何なのでしょうか」

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