[視点]

2022年7月号 333号

(2022/06/09)

知財・無形資産投資と価値創造

加賀谷 哲之(一橋大学大学院経営管理研究科 教授)
  • A,B,EXコース
はじめに

 企業価値の決定因子が有形資産から無形資産へと移行しているといわれて久しい。有形資産の多くは、多くの企業にとってアクセスが容易であり、また市場の需要動向などを見込んでその投資を決定するケースが多い。また有形であることから、資金調達時における担保として受け入れられる可能性が高い。これに対して、無形資産の多くは、成果の不確実性が高い。たとえば、研究開発など無形資産投資を行う段階では、特定のアウトプット・成果を想定することが難しく、積極的に投資をしたところで、それがそのまま成果に結びつくとは限らない。またその特殊性・固有性が高いがゆえに、資金調達時における担保として受け入れられにくい。さらに特定の知財・無形資産のみでは価値創造に結び付くとは限らず、むしろ複数の資産の組み合わせで価値に結び付くケースが多いことも、その管理の難易度を高める側面がある。一方で、そうした測定・管理の困難性は、他社からの模倣を難しくさせ、参入障壁の源泉となりうる。さらに無形であることから多重利用可能であり、きちんと成果に結びつけることができるようであれば、その成果を増幅させることが可能である。

 こうした知財・無形資産をいかに企業価値に結び付けるかは、重要な経営課題の一つとなりつつある。グローバル競争が進展し、製品・サービス市場におけるライフサイクルが短縮化する中、より持続可能性を確保するため、戦略的に知財・無形資産を蓄積し、活用することが求められるようになっているためである。また環境課題や社会課題がより深刻化するなかで、経済で中核的な役割を果たす企業に対して、積極的にそれらを解決する取り組みを進めるよう期待する声が大きくなっている。財務業績の向上とともに環境・社会課題を両立して解決していくためには、既存の活動の延長戦上では対応できない可能性が高く、知財・無形資産の戦略的投資によるイノベーションが不可欠となる。こうした課題認識のもと、たとえば2021年6月に公表された「改訂コーポレートガバナンス・コード」には、人的資本や知的財産への投資などの開示や取締役会における監督を行う必要があることを明記されるなど、積極的に知財・無形資産に投資し、それを企業の競争優位の源泉として価値創造に結び付ける取り組みが推奨されているのである。

知財・無形資産投資の国際比較

 ここで日本企業と米国企業、欧州企業の知財・無形資産投資の水準の国際比較を試みる。

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