[視点]

2022年9月号 335号

(2022/08/09)

スタートアップエコシステム形成において期待される大企業の役割

芦澤 美智子(横浜市立大学 国際商学部 准教授)
  • A,B,EXコース
スタートアップに関する議論の盛り上がり

 2021年10月に総理大臣になった岸田文雄氏は、2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけスタートアップの創出に取り組むと宣言している。岸田氏自らスタートアップの現場に足を運ぶ姿も複数見られ、2022年2月には日本最大級のスタートアップ向けコワーキングスペースであるCIC Tokyoを訪ね、入居している起業家や支援者と懇談を行った。

 政府が本格的にスタートアップ創出に乗り出す背景には、世界的なベンチャーブームがあり、スタートアップ支援策でしのぎを削るグローバルな都市間競争の激化がある。

 日本では2013年頃から「第4次ベンチャーブーム」が始まって今に至る。年間のスタートアップへの資金調達総額が拡大し、10年前(2012年)の645億円に対して、2021年は7801億円、12倍の成長を遂げている。(注1)。しかしながら、他国のスタートアップ市場はさらに拡大しており、2021年に米国で3295億ドル(1ドル110円換算で約36兆円)(注2)、中国で1兆3748億元(1元17円換算で約23兆円)(注3)の資金調達が実行された。つまり昨年1年で、米国では日本の約46倍、中国では30倍の資金がスタートアップに投下されている。

 この差の理由は様々説明されうるが、日本の各都市のスタートアップエコシステムが未熟であり、起業家を支援する仕組みが整備されていないことが指摘されている。岸田内閣の提唱する成長戦略の中には「スタートアップエコシステム構築」が示されていて(注4)、日本においてもスタートアップエコシステム形成が必要であるとの認識がなされて動いている。

スタートアップエコシステムの本質と日本におけるエコシステム形成の動き

 従来「起業」の世界観は、あまたいる起業家の中からごく一握りのみが個人の努力と運で成功するというものであった。それが「スタートアップエコシステム」の概念提唱により変化してきている。すなわち、起業家を知識の支援者たちがシームレスに支え育てるという世界観が主流となってきている。実際に、シリコンバレー、ニューヨーク、ロンドン、北京といった世界中の各都市で、インキュベーター、アクセラレーター、ベンチャーキャピタリストなどと連携し、知識やスキルに乏しい起業家を支援する姿が見られる。そうした各都市では頻繁にミートアップと呼ばれるイベントが開催されていて、起業家と支援者が直接交流し、名刺交換をし、アドバイスを受けることができる。このような活発な交流は産学官の垣根を越えて行われ、社会的ネットワークや起業に肯定的な文化が都市に生み出され、起業家を後押しする土台となっている。

 日本でも2019年から内閣府・経済産業省・文部科学省によって「スタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」が始動している。この政策の流れで、

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