[視点]

2023年3月号 341号

(2023/02/09)

公開買付規制の改正の論点――市場買付けの問題を中心に――

田中 亘(東京大学 社会科学研究所 教授)
  • A,B,EXコース
1 はじめに

 わが国の公開買付規制は、2006年の証券取引法(現・金融商品取引法[金商法])改正の後は、大きな改正を経験していない。けれども、同改正後、著名企業を当事者とするものも含めた相当数の敵対的買収や競合買付け、あるいはそれらに対する防衛策導入や対抗措置発動の事例等を通じ、現行法制には様々な課題があることが明らかにされつつある(注1)。これらの課題を包括的に検討し、必要な法改正を行うことが適切な時期に来ていると考える。本稿は、法改正を検討すべきであると思われる事項のうち、特に、市場買付けに対する規制の是非について論じたい(注2)。

2 市場買付けに対する規制

 日本の強制公開買付規制(金商法27条の2)は、基本的に、取引所金融市場外での株券等の買付け等に対して適用されるものであり(同条第1項1号・2号)、取引所金融市場(特に立会取引市場)における買付け(以下、「市場買付け」という)には、原則として同規制の適用はない(例外的な適用につき、同項3-6号参照)。しかし、対象会社の経営支配権を取得しうるほど大量の株券等の取得を市場買付けによって行うことには、問題が存すると考える。第1に、市場買付けは、公開買付けのような情報開示規制が課されないため、対象会社の株主は、買付けの条件や買付け後の買付者の経営方針等について十分に情報を得られないまま、株式を売却するかどうかの判断をしなければならない。

 第2に、


■筆者プロフィール■

黒田氏田中 亘(たなか・わたる)
東京大学社会科学研究所教授。博士(法学)(東京大学)。1996年東京大学法学部卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科助手、成蹊大学法学部准教授等を経て、2015年4月より現職。2010年シカゴ大学ロースクール客員准教授。経済産業省・公正な買収の在り方に関する研究会委員。過去に、法制審議会会社法制部会幹事、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会幹事、経済産業省・公正なM&Aの在り方に関する研究会委員等を務める。主著に、『企業買収と防衛策』(商事法務、2012)、『会社法(第3版)』(東京大学出版会、2021)、『日本の公開買付け:制度と実証』(共編著、有斐閣、2016)などがある。

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