[視点]

2023年5月号 343号

(2023/04/11)

公開買付規制・大量保有報告規制のエンフォースメント

太田 洋(西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・NY州弁護士)
  • A,B,EXコース
 2023年3月2日、金融審議会総会は、公開買付規制及び大量保有報告規制の本格的な見直しに着手する旨を決定した。見直しの方向性については、市場内買付けに対する強制TOB規制の適用など、今後、金融審議会が設置することになるワーキング・グループや学界・実務等において、活発な議論がなされることが期待される。
 
 そこで、本稿では、公開買付規制ないし大量保有報告規制における規制の内容ではなく、そのエンフォースメントの問題に光を当てることとしたい。

 わが国では、公開買付規制や大量保有報告規制における実体的な規制の在り方についてはしばしば論じられるが、そのエンフォースメントの問題が論じられることは余りない。しかし、実務家からすると、エンフォースメントがされなければ実体的な規制は画に描いた餅に堕してしまうため、エンフォースメントの在り方は、実体的な規制の内容と同程度に重要である。

 翻って、公開買付規制や大量保有報告規制のエンフォースメントの状況を概観してみると、「事前予防型規制」から「事後責任型規制」への移行が唱えられてから約四半世紀が経過しているにも拘らず、いささか寂しい状況といわざるを得ない。即ち、関係者による多大な努力の結果として、平成20年12月12日施行の金融商品取引法(金商法)改正によって、公開買付届出書や大量保有報告書の不提出や虚偽記載及び公開買付開始公告の不実施や虚偽記載につき、行政罰として新たに課徴金が課されることになったにも拘らず、公開買付規制違反が刑事罰や課徴金の対象となったのは


■筆者プロフィール■

太田氏太田 洋(おおた・よう)
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士。1991年東京大学法学部卒、93年第一東京弁護士会弁護士登録、2000年ハーバード・ロー・スクール修了(LL.M)、01年米国NY州弁護士登録、01年~02年法務省民事局参事官室、03年西村あさひ法律事務所パートナー、13年~16年東京大学大学院法学政治学研究科教授、17年~18年経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会」委員。現在、リコー社外監査役、日本化薬社外取締役、日本取締役協会幹事、経済産業省「公正な買収の在り方に関する研究会」委員。2021年~22年のアジア開発キャピタル対東京機械製作所事件、20年の旧村上ファンド対東芝機械事件、18年~19年の武田薬品工業(株)によるシャイアー買収案件、14年の日本ペイントとウットラムとのM&A案件など、数多くの敵対的買収対応案件・M&A案件を手掛ける。

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