[カーブアウト・事業売却の人事実務]

2023年6月号 344号

(2023/05/12)

第5回 人事機能のプラットフォーム化

小原 広太郎(マーサー ジャパン M&Aアドバイザリーサービス部門 シニアマネージャー)
  • A,B,C,EXコース
人事機能をどのような姿にしておくか

 前回まで主に売却準備から売却完了までの組織・人事上のチェックポイントを見たが、今回は平時の事業運営の中で人事機能をどのような姿にしておくかという視点から見たい。

 カーブアウト・事業売却に際しては、新会社を立ち上げるにせよ、買い手の既存組織に統合するにせよ、様々な人事プロセスや人事サービスがDay1から着実に機能するようになっている必要がある。この時、売却対象事業の現行の人事制度やオペレーションが複雑だったり、市場慣行からの逸脱が大きかったり、売り手の人事機能との結びつきが強すぎたりすると、買い手としてはクロージング準備の難易度が上がる可能性が高まる。売り手視点でも、買い手の人事機能立ち上げに協力する工数の増加や、クロージング後にもTSA(Transition Service Agreement)の下での人事サービスの継続的な提供が想定されるなど、結果として手離れが悪い案件となってしまう。

 それを避けるうえで人事機能のプラットフォーム化、すなわち事業や国・地域を超えたグループワイドな共通化を図ることで、過度にユニークな仕組みにならないように本社から手を入れておくことが一つの方策である。一方で、適切な範囲を超えてプラットフォーム化を進めると今度はデメリットが目立つことにもなるため、自社にとっての最適なバランスの見極めが大切になる。

人事機能のプラットフォーム化による期待効果とリスク

 ここで言う人事機能とは、等級・評価・報酬などの人事関連諸制度、配置・育成といった人材マネジメントフロー、情報システム(HRIS)を含む人事インフラ、それらを支えるオペレーションや人事組織など、人事運営にまつわる広範な機能を指している。これらのプラットフォーム化には様々な狙い・期待効果が考えられる。代表的なものでは、(1)事業や国・地域を跨いだ最適なタレントマネジメントの実現、(2)人事オペレーション集約による効率化とコストダウン、(3)統一的な組織カルチャー形成と一体感の醸成、(4)重要事項のモニタリングとコントロールの強化などが考えられる。平時の人事運営において、これらのもたらす便益が大きいことは想像に難くない。

 また、カーブアウト・事業売却の場面においても、



■筆者プロフィール■

小原 広太郎(おはら・ひろたろう)小原 広太郎(おはら・ひろたろう)
マーサー ジャパン M&Aアドバイザリーサービス部門 シニアマネージャー
日系機械メーカー人事部を経て現職。主にクロスボーダーM&Aやグローバル規模での事業スピンオフなど、ビジネストランスフォーメーションに係る組織・人事課題の解決を支援している。とりわけ、前職における国内外での幅広い人事実務の知見を活かし、組織統合の深度や人事ガバナンスの強度を踏まえた人事プラットフォーム構築のプロジェクトをリードした経験が豊富。
著書に「カーブアウト・事業売却の人事実務」(2022年中央経済社刊、共著)がある。
京都大学総合人間学部卒、京都大学大学院人間・環境学研究科修了。

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