[M&A戦略と会計・税務・財務]

2023年6月号 344号

(2023/05/12)

第189回 Web3.0の推進と暗号資産に係る税制改正

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. デジタル社会の実現に向けた重点計画

 デジタル化、脱炭素、イノベーションは、わが国の経済政策の中で筆頭に挙げられてきた課題であるが、中でもデジタル化は欧米からの遅れが指摘されてきたところである。「骨太方針2022」(「経済財政運営と改革の基本方針2022」2022年6月7日閣議決定)でも、企業や官公庁のDXの進展によるデジタル社会の実現とは別に、わが国の社会課題の解決に向けた取組として、Web3.0の推進のための環境整備による分散型のデジタル社会の実現が掲げられている。
(多極化された仮想空間へ)
 より分散化され、信頼性を確保したインターネットの推進や、ブロックチェーン上でのデジタル資産の普及・拡大など、ユーザーが自らデータの管理や活用を行うことで、新しい価値を創出する動きが広がっており、こうした分散型のデジタル社会の実現に向けて、必要な環境整備を図る。

 そのため、トラステッド・ウェブ(Trusted Web)の実現に向けた機能の詳細化や国際標準化への取組を進める。また、ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める。さらに、メタバースも含めたコンテンツの利用拡大に向け、2023 年通常国会での関連法案の提出を図る。Fintech の推進のため、セキュリティトークン(デジタル証券)での資金調達に関する制度整備、暗号資産(注1)について利用者保護に配慮した審査基準の緩和、決済手段としての経済機能に関する解釈指針の作成などを行う。
 Web3.0は、次世代インターネットとして注目される概念で、巨大なプラットフォーマーの支配を脱し、分散化されて個と個がつながった世界を言い、電子メールとウェブサイトを中心としたWeb1.0、スマートフォンとSNSに特徴付けられるWeb2.0に続くもの(骨太方針2022)とされる。

【図表1 デジタル社会の実現に向けた重点計画の概要】
【図表1 デジタル社会の実現に向けた重点計画の概要】

(出所: デジタル社会の実現に向けた重点計画:2022年6月7日閣議決定)

 2022年6月7日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、デジタル社会の実現に向けた7つの基本戦略(図表1参照) を掲げており、⑥デジタル産業の育成と⑦Web3.0の推進については、令和5年度税制改正による対応が図られている(スタートアップ・エコシステムの抜本的強化に向けた税制措置、暗号資産の取扱いの見直し)。本号では、Web3.0の推進に係る暗号資産の取扱いの見直しについて解説する。


■筆者プロフィール■

荒井 優美子

荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング