[視点]

2021年9月号 323号

(2021/08/16)

IFRS適用と研究開発投資

野間 幹晴(一橋大学大学院 経営管理研究科 教授)
  • A,B,EXコース
1. イノベーションの停滞

 日本企業のイノベーションが停滞している。一方、二酸化炭素などの温暖化ガスの排出により、気候変動リスクが高まっている。サステイナビリティを維持するためには、イノベーション、なかでも技術革新が必要不可欠である。
 欧州連合(EU)は気候変動対策でルール形成を先導している。2015年2月、パリで開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で、パリ協定が合意された。米国や中国も、かねてより気候変動に適応した経済の構築に取り組んでいる。日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表したものの、彼我の差は歴然としている。
 自動車産業でも、日本の自動車メーカーは電動化やゼロエミッション化で遅れている。EUは2035年までにガソリンエンジンなどの内燃機関車の新車販売を事実上、禁止する方向性である。これを受けて、ダイムラーやフォルクスワーゲンなどの欧州の自動車メーカーは、電動化に向けた取組を加速している。テスラをはじめとした米国の自動車メーカー、中国メーカーもゼロエミッション化に向けて舵を切っている。ハイブリッド車をEVの中心に据えてきた日本の自動車メーカーは、競争力を喪失するリスクに直面しており、研究開発の強化が必要不可欠である。
 自動車産業に限らず、イノベーションを起こすためには研究開発が重要である。本稿では、会計基準の側面から企業の研究開発を考察する。以下では、研究開発投資に関する日本の会計基準と国際会計基準(IFRS)の相違を説明したうえで、日本と欧州の自動車メーカーの研究開発活動の実態を明らかにする。続いて、IFRSを適用した日本企業の研究開発投資の変化についての実証分析の結果を検証する。最後に、会計基準設定の経済的影響と中立性について考える。

2. 日本基準とIFRSの相違

 日本の会計基準とIFRSでは、研究開発投資に関する会計処理が異なる。日本基準では、研究開発投資の全額を発生時に費用として認識する発生時全額認識が要求されている。これに対して、IFRSでは

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