[対談・座談会]

2025年3月号 365号

(2025/02/12)

[対談] 「同意なき買収」の歴史と未来の展望

岩倉 正和(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士/ニューヨーク州弁護士、一橋大学大学院法学研究科(ビジネスロー専攻)教授)
(聞き手)大熊 将八(QuestHub 代表取締役CEO)
  • A,B,C,EXコース
左から岩倉正和氏、大熊将八氏

左から岩倉正和氏、大熊将八氏

メインバンク制や株式持ち合いの慣行も影響し、戦後長らく事実上タブー視されてきた敵対的買収。近年になり、経済産業省の「企業買収における行動指針」(企業買収行動指針)の策定などを受けて、企業価値を向上させる買収であれば同意の有無にかかわらず実行する方向へ転換が図られつつあるのが現在の日本の状況といえる。
企業買収行動指針の策定後、ニデックによるTAKISAWAの買収や第一生命ホールディングスによるベネフィット・ワンの買収の成功、足元ではPEファンド・ベインキャピタルによる対抗TOB提案やニデックによる牧野フライス製作所への買収提案など、従来「敵対的」と見なされた手法が「同意なき」買収として活発化しつつある。株価を公平な尺度とみなす意識が求められていること、経営者による自己保身を排するフィデューシャリー・デューティの認識も少しずつ浸透しつつあるのかもしれない。今後は、企業価値と株主共同利益の向上を実現することを重視する流れがより強まる可能性もある。
ニデックによるTAKISAWAへの同意なき買収及びJIP(日本産業パートナーズ)による東芝の買収の際のリーガル・アドバイザーを務めるなど(共に、買い手側)、一連の実務を長年にわたり経験してきた岩倉正和弁護士に対して、企業支配権市場を専門とするアドバイザーの大熊将八氏を聞き手にインタビューをおこなった。
<目次>
  1. 「敵対的買収」の歴史と経緯
  2. 企業価値と株価
  3. どのような企業が同意なき買収を活用していくべきなのか
  4. PEファンドによる同意なきTOB
  5. 事前取得(toehold、トーホールド)の是非
  6. 実績が求められる同意なき買収
  7. 一般的な日本企業による同意なきTOBの今後の可能性


1. 「敵対的買収」の歴史と経緯

大熊 「本日は敵対的買収・同意なき買収の領域で長年ご活躍されてきた岩倉先生に、私からいろいろな背景やお話をうかがわせていただく形で進行できればと思います。

 日本ではこれまで、いうなれば敵対的買収は実質的に禁止されてきたと思っています。しかし、去年あたりから状況も変わっています。たとえば、昨年はAZ-COM丸和ホールディングス(HD)によるC&FロジHDへのTOB提案があり、当社はC&F側のFAを務めました。下記の図表にもあるように、近年、明らかに同意なき買収が増加してきています。

 このような状況にあるわけですが、同意なき買収がなぜ増加しているのか、これは一瞬のブームなのか、長期的にトレンドになっていくのか、まずはこのあたりをうかがえればと思います」

岩倉 「まず統計的には確かに増えてきました。その原因としていちばん大きいのは、2023年8月31日に経済産業省が『企業買収における行動指針』(企業買収行動指針)を発出し、この中で『望ましい買収』というのは、企業価値を向上させて、株主共同の利益になる買収のことだという見解を明確に示したことだと考えます。企業買収行動指針では、それがいままでの日本では阻まれてきたことが多いという認識のもと、日本経済、日本の企業の国際的競争力が少なくとも他国に比べて上がってこなかったことにも触れられています。

 市場環境的には株式の持ち合いが日本では過去長く行われてきたわけですが、政府も金融庁も東京証券取引所も政策保有株を持っているのは駄目だと、はっきりと言うようになりました。

 私は弁護士を40年近くやっていますが、

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