[クリーンテックと欧米エネルギー企業の最新M&A動向]

(2022/07/12)

【第6回】石油メジャーから脱し、統合エネルギー企業に変貌を急ぐ英BP

出馬 弘昭(IZM代表)
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BPの経営戦略「2050年までにネットゼロ企業に」

 2021年に米国で開催されたクリーンテック分野のカンファレンスで、英国の石油大手BP幹部の講演を聞く機会があった。本稿ではまず、BPが現在どのような企業への変革を目指しているのか、その骨子を紹介する。

 2020年、BPは「2050年までに『ネットゼロ』(温室効果ガスの排出の実質ゼロ)企業になり、世界のネットゼロに貢献する」と宣言した。国際的な石油メジャーから「統合化されたエネルギー企業」に移行するために、根本的に組織を見直す方針だ。石油ビジネスの上流、下流を抑える旧来的なこれまでのビジネスモデルは廃止する。顧客(すなわち、国、都市、企業、個人)のニーズに合わせたエネルギーをリーズナブルな価格で安定して供給するとともに、さらに、顧客の脱炭素への取り組みを支援する。ネットゼロ社会に向けて、顧客とWIN-WINの関係を目指す。

 なかでも、水素分野はBPの将来ビジネスの重要なパートと位置づけている。様々な水素プロジェクトに投資しているが、天然ガスから作られる「ブルー水素」と水の分解によって生成される「グリーン水素」の2つは完全に共存するとの見方をBPは示している。水素を1kg製造する際のコストの目標は1~1.5米ドルで、地域ごとにあらゆるオプションを視野に入れているという。

 もっとも、安い天然ガスと豊富な貯蔵施設があればブルー水素が有力であり、全体的に今はまだブルー水素の方が価格も安い。しかし、電解槽と再エネのコスト低下とともに、グリーン水素が成立する地域がこれから出てくると見込んでいる。太陽光由来のグリーン水素が成立する地域は、米国の南西部と西部、豪州の一部、中東、北アフリカの5つの地域だと見ているとのことである。

 多くの企業がグリーン水素のビジネス化を目指している。BPは過去から大型プロジェクトを経験してきたため、グリーン水素の大規模プロジェクトにも自信がある。大規模水素プロジェクトを成功させるハードルは非常に高いが、BPは自信を見せている。技術的な視点で見れば、ネットゼロは可能だと考えているということであった。



■筆者履歴
IZM代表 出馬 弘昭出馬弘昭(いずま ひろあき)
IZM代表。1983年京都大学工学部物理工学科卒業。大阪ガスに入社し、同社R&DおよびIT部門でデータ分析、行動観察、オープンイノベーション事業などを立上げ。2016年より米シリコンバレーに駐在し、欧米のクリーンテックとのビジネス開発を開拓。2018年に東京ガスに入社し、シリコンバレーのCVC立上げに参画。2021年に帰国し、東北電力に入社し、事業創出部門のアドバイザーに従事。製造業やコンサルティング大手などの外部顧問、海外スタートアップの日本展開支援なども務める。南カリフォルニア大学ロボット研究所客員研究員、京都大学非常勤講師、大阪市立大学非常勤講師、日本オペレーションズリサーチ学会副会長などを歴任。「エネルギーテック勉強会」主催のセミナーを随時開催している。https://energytech-study-group-innovator-program2.peatix.com/view

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