[日本M&A市場 大変革の時代]

(2024/08/20)

第5回 ・完 M&Aの活用によるスタートアップ・大企業イノベーションの活性化

大原 崇(ベイン・アンド・カンパニー パートナー)
宮沢 悠介(同 アソシエイト パートナー)
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ポイント
〇日本のスタートアップによる資金調達額は過去10年で約5倍まで成長したが、まだ黎明期
〇特に国内ではユニコーン・デカコーン企業数が少ないが、事業成長のためにM&Aが適切に使われていないことがその要因の1つ
〇大企業も、スタートアップの買い手としての存在感が薄い。「飛び地狙いの純投資」CVCに代表されるように、本体のイノベーション戦略とスタートアップ投資がバラバラで、組織としてのコミットメントが不足していることが背景
〇事業戦略・イノベーション戦略と結び付けてM&Aを正しく活用することで、スタートアップおよび大企業イノベーションの活性化が図れる

黎明期にとどまる日本のスタートアップ市場

 日本のスタートアップの資金調達件数及び金額は年々増加しており、日本のVC投資は過去10年で約5倍にまで成長した。政府主導での各種取り組みの報道や、SaaS領域を中心に知名度の高いスタートアップ企業も増えていることから、一般的な感覚としては日本のスタートアップ・VCは順調に育ってきているという印象があるかもしれない。

 一方、海外諸国と比較すると日本のスタートアップ市場はまだまだ黎明期にあると言わざるを得ない。世界のスタートアップをけん引してきた米国はもとより、日本と同様に国内市場が小さいものの、近年エンタープライズテック等の領域でスタートアップが活発に活動している韓国にも、GDP比でのVC投資額・絶対額が劣後している。

 特筆すべきは大型のスタートアップが少ないことである。日本のユニコーン(創立後10年以内で時価総額推定が1 billion米ドルを超える非上場企業)は24年5月時点でわずか4社(例:Preferred Networks、Sakana AI)、日本よりGDPの小さい英国(30社)、イスラエル(15社)に大きく劣後し、いわゆるデカコーン企業(同10 billion米ドル以上)に至っては0社だ。

 また、時価総額上位50社を見ても、日本では創業後30年以内の会社は1社も入っていないが、米国ではMeta、テスラなど6社、韓国でもNAVER、Kakao等7社がランクインしている。スタートアップが小粒にとどまっていることの副作用で、国全体の企業の新陳代謝も滞る事態となっている。


■筆者プロフィール■

大原氏

大原 崇(おおはら・たかし)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー
15年以上にわたり、電機・電子機器メーカー、半導体、自動車、運輸等の幅広い業界の国内外のクライアントに対するコンサルティングに従事。全社ポートフォリオ戦略、成長戦略、コスト構造改革、戦略立案から買収後の統合支援までの国内外のM&A支援等、多岐にわたるテーマのプロジェクトを手がける。ベイン東京オフィスにおけるM&Aプラクティスリーダー。
東京大学法学部卒業。パソナ、外資系コンサルティングファームを経てベインに入社。

宮沢氏

宮沢 悠介(みやざわ・ゆうすけ)
ベイン・アンド・カンパニー アソシエイト パートナー
約10年にわたり、主にIT、通信、テクノロジー、製造業領域におけるコンサルティングに従事。特にポートフォリオ戦略、事業戦略、顧客戦略、DX、新規事業創出等のプロジェクトを数多く手掛けている。
東京大学工学部卒業、同工学系研究科修了後ソニーにて研究開発業務、ベンチャーキャピタルにてCVC運営並びに投資業務を経てベインに入社。

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