[ポストM&A戦略]
2013年6月号 224号
(2013/05/15)
Inbound とはいわゆるOut-In(外から内へ)のことで、海外企業が日本企業を買収するパターンのM&Aである。我が国ではIn-Out(内から外へ)、Out-In と言う方が通りが良いが、英語の世界ではそれぞれOutbound、Inboundとなる。
今回は本連載ではあまり触れる機会がなかったJapan Inbound M&Aについて、買い手としての海外企業の視点と、売り手あるいは対象会社としての日本企業の視点から論じてみたい。前者については、Outbound M&Aにおいて手馴れた日本の買い手が行っていることの裏返しであり、頭の体操的ではあるが、事例も紹介しつつ確認と整理を行いたい。
買い手である海外企業に対するM&A支援の範囲
海外企業による日本企業へのM&Aは、件数ベースで見ると2007年の309件をピークに、その後落ち着いた動きとなっていたが(図)、昨今の円高修正もあって、2013年に入ってからは1月~3月の合計で前年同期に比べて大幅に増加し、活況を呈している。本来、事業構造改革につながるような戦略上重要なM&Aは、多少の為替レートの変動を越えて検討が進むものと筆者は考えるが、この期間のOutbound M&Aが対照的に低調であることをみると、少なくとも短期的には為替レートの急激な変動がクロスボーダーM&Aに影響を与えている可能性はあり、またそれほど為替レートの変動が大幅だったという見方もできるだろう。
弊社の経験を踏まえて海外の買い手にどのような支援のニーズがあるのかを手短にご紹介すれば、要するにOutbound M&Aの状況の逆であるといってよい。つまり、買い手が日本の基本的な状況を必ずしもよくお分かりでないケースも含めて、まずはデューデリジェンスからスタートし、クロージング、そしてさらにPMI(Post Merger Integration)まで、案件により広範かつ長期間のサポートとなる場合もある。
Japan Inbound M&Aには、①日本企業を買収の直接対象としたM&Aの場合と、②海外企業を対象としたM&Aであるがその対象会社が日本に拠点を持っている場合がある。①の場合、もちろん対象会社の企業規模は大小さまざまである。なお、売り手は、売り先として海外企業だけを考えているとは限らないので、もし最終的に国内企業に売却することに決まれば、その場合は国内取引(いわゆるIn-In)になる。
また②の場合、その日本拠点が社員数名規模のこともあるが、日本拠点だけですでに大企業になっていることもあり、こちらもさまざまである。この場合は、最終的な買い手が日本企業なら対象企業が海外企業であるからJapan Outbound M&Aとなる。
さらに、本連載でも以前に説明したように、Japan Inbound M&Aにおいても、買収後に企業体として独立的に機能させるための検討課題、すなわちスタンド・アロン・イシューが発生するスキームになっている場合がある。
具体的には、アセットディール(事業買収、切り出し、カーブアウトなどとも呼ばれるもの)、あるいは子会社を株式買収によって買収するのだけれども、年金や健康保険、あるいは人事機能などが親会社と共通化されているようなケースである。
また、買い手である海外企業が日本未進出である場合もあるが、すでに日本拠点がある場合には、買収後一定期間内に拠点統合を行うのか、それとも両者を当面分離並立させておくのか、決める必要がある。拠点統合を見込む場合は、統合に伴う検討課題と工数が発生する。
そして、拠点統合の有無に関わらず、買収後は買い手の考え方に沿った経営が浸透するよう、組織、幹部人事、人事制度全般(評価、報酬、人材開発など)、人事機能にも改革のメスが入ることが想定される。
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