[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]
2015年2月特大号 244号
(2015/01/15)
山岡ファイナンスサービス社と渋沢ファイナンスコーポレーション社は、1年半に及ぶ準備期間を経て、ついに経営統合した。物理的な組織融合も開始され全社員が新たな門出を迎えたが、一方で従業員に影響を与える役員や管理職の中にも、未だに経営統合を他人事としてしかとらえていない者も少なからずいた。
業を煮やした松尾明夫と横山友樹は、経営統合アドバイザーの大門に経営統合下での意識改革の手法について助言を受けると共に、他社での具体的な失敗事例のレクチャーを受けていた。
チェンジ・エージェント
大門はプロジェクターで投影された資料を指さすと、説明を続けた。窓の外に見える空は夕暮れ色に染まり、淡い橙色の陽が部屋にも差し込んでいた。
「社長自ら議論を終始リードしたこと、まさにそこがポイントでした。事務局と社長は事前に当日の段取りなどをすり合わせていましたが、社長自ら議論のファシリテーションを務めることまでは、あまり明確に決めていませんでした。普段から議事進行役を務めることが多い専務あたりがきっとファシリテートするのだろうと、事務方はおぼろげに考えていた程度です」
大門の説明に松尾も横山も耳を傾けた。統合局面で求められる行動変革を、いかにして従業員個々にまで「主体化」させるのか。他社事例のキーワードとして出てきたのは「チェンジ・エージェント」である。
チェンジ・エージェントは、行動変革を周りの人間に啓蒙し、率先して自ら動きを変えることができる人を指すという。それらは社内のレイヤー毎に相当数が作られ、周りの人を巻き込み、自然と社内の隅々まで影響を広げていくというのだ。そしてチェンジ・エージェントによる取り組みを成功させるには、「上のレイヤーからやる」と、「自立的に下のレイヤーまで広げていく」の二つが重要であるという。
大門は説明を続けた。
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