1. 「物価に負けない賃上げ」の実現の対応を織り込んだ「令和6年度予算政府案」
2023年12月22日、令和6年度予算政府案と令和6年度税制改正の大綱が閣議決定された。その後、能登半島地震対応への追加計上を閣議決定(2024年1月16日)した令和6年度予算政府案(一般会計112兆5717億円)は、過去最大規模の令和5年度(当初)政府予算案(一般会計114兆3812億円)をやや下回る予算規模であり、防衛力強化資金繰入の減少と原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費の減少が予算規模を縮小させている。但し、原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応の支出については、令和5年度補正予算(2023年11月10日閣議決定、2023年11月29日成立)において、令和5年度(当初)政府予算案における同予備費(4兆円)とほぼ同規模の予算(4兆666億円)が追加計上された(注1)ため、令和6年度予算政府案では予備費としての計上が減少したものと考えられる。
令和6年度予算の考え方を示す令和6年度予算編成大綱(2023年12月14日自民党総務会了承)では、「デフレ経済から脱却し、足元の物価高から国民生活を守るために、その方策の主軸を「持続的かつ構造的な賃金引き上げ」と位置付け、官民を挙げた投資の促進や、こども・子育て政策の抜本的な強化、医療・介護・障害福祉分野の現場が危機的状況にあることを踏まえた、報酬改定での物価高騰・賃金上昇等に確実に対応すること」が予算編成の方針として掲げられている。令和6年度予算編成大綱では、「バブル崩壊後、約30年にわたって続いた縮小均衡のコストカット型経済から、人や設備、事業に思い切って投資し、必要なコストが適正に価格に転嫁され受容される経済への転換なくして、持続的な経済成長も国民所得の向上も成り立たない。」「長年続いたデフレ経済からの脱却を図るうえでも、また、足下の物価高から国民生活を守るうえでも、その方策の主軸は、持続的かつ構造的な賃金引き上げである。」として、デフレ経済からの脱却と経済の好循環には、構造的な賃上げの実現が不可欠であることを強調する(図表1参照)。
2. 新しい資本主義政策における賃上げの意義
2023年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~」(以下、「総合経済対策2023」)では、
■筆者プロフィール■
荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。