[M&Aフォーラム賞]
2016年11月号 265号
(2016/10/18)
(*)所属は執筆時
【 編 者 】 | 森・濱田松本法律事務所 |
【編集代表】 | 石綿 学(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士) 棚橋 元(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士) |
11作品が応募
M&Aフォーラム賞選考委員会は、2015年度(平成27年度)「第10回M&Aフォーラム賞」に4作品を選定し、9月28日表彰式が行われた。
「M&Aフォーラム」は、2005年10月の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」による中間報告において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受け2005年12月に設立され、今年で11周年を迎える。
理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後のわが国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。
「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身で、M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、06年にM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。
第10回を迎えた今回は、法律、経営、経済、金融、M&A実務などM&Aに関わる様々な分野・問題を取り上げた11の書籍・論文の応募があった。
選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)、丹羽昇一氏(レコフデータ執行役員)の3人の委員によって、
①作品が創造性に富んでいること。
②実用性・実務への応用可能性が高いこと。
③問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの。
④M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの。
⑤理論的・実証的な分析を行っているもの。
という観点で審査が行われた。
岩田選考委員長による講評
岩田選考委員長は、「最終選考となった2次審査では、M&Aに関する法規制の体系的な書を始め、M&Aにおける第三者委員会の役割、公開株式買付価格と個人投資家、マーケットモデルによる株式所得価格決定、M&Aの組織・人事を通じたコントロールや労務デュー・ディリジェンスなどM&Aの現場で必要とされる問題について深く掘り下げた作品が提出されました。
審査では、多様なテーマについてまとめられた秀作が並び、また、異なる分野の優れた業績を評価、比較することは容易ではありませんでした」として、次のように講評を述べた。
「白井正和・仁科秀隆・岡俊子著『M&Aにおける第三者委員会の理論と実務』は、MBOや親会社による上場子会社の完全子会社化など利益相反性の高いM&Aについて組成される第三者委員会に期待される機能、第三者委員会が実施すべき検証作業に関する実務、取引条件の公正性について理論と実務の両面から鋭い切り込みをいれた秀作です。
付言すると、本書が対象とするのは、企業不祥事の際に組成される第三者委員会とは異なり、取締役と株主の間の利益相反を回避するために設置される第三者委員会の果たすべき機能と役割であります。
本書が対象とする第三者委員会は、利益相反性のあるM&A取引における価格の合理性や買収の対象となる会社の取締役の善管注意義務の有無に大きな影響を与えるために、近年、その重要性について、注目が集まっています。
日本においても、第三者委員会の組成の必要性が認められるようになっており、その内容や有効性に機能するための要素は何かが問われるようになっている状況にあり、本書の出版は、極めてタイムリーでありました。
本書は、第三者委員会普及の実態を十分に踏まえた上で、米国法における議論の展開を参考にして、第三者委員会が有効に機能することを説得的に論じています。同時に、利益相反回避措置として、第一段階として第三者委員会、第二段階として少数株主に関する『Majority of Minorityルール』を位置付けた上で、第三者委員会の目的の公正性、取引の合理性、手続きの公正性を検討しています。
この検討プロセスにおいて、日本の6つの裁判例のみならず、アメリカ法とその裁判例に即して有効性の評価基準となる要素〔取締役の独立性、情報を得るための公正な手順、独立した財務、法務アドバイザーの指名、取引における積極的な役割〕を抽出し、日本における評価基準の課題を明示しています。
本書は、実務面にも配慮し、実際に第三者委員会がどのように活動すべきか、その組成から委員会メンバーの選定、答申に至るまでのプロセスを丁寧に記述しており、実務の面における優れたガイドラインを提供しています。また、取引条件の公正性について、株式価値算定書の役割と価値評価法(市場株価法、類似会社比較法、DCF法、コスト法)、フェアネスオピニオン取得の重要性を指摘しています。
本書は、法理論と実務のプロセス、取引の公正性の確保という3つの観点から、その活動と役割が注目されている第三者委員会の機能が有効に発揮されるための条件と日本における課題を丁寧かつ具体的に浮き彫りにした点に貢献があります。
次に、M&Aフォーラム賞の奨励賞は、『M&A法大系』と『個人投資家の参照点と株式公開買付け価格』に授与することとしました。いずれの作品も甲乙つけがたい力作であり、審査委員の満場一致で授与の決定をいたしました。
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