- <目次>
- 2021年の世界経済を読む
- K字型回復のリスク
- バイデン政権下の対中国政策と世界経済の分断
- 2021年の日本経済と企業が取るべき戦略
- デジタル変革で日本が取るべき戦略
- バリューチェーン全体の再設計が喫緊の課題
- 中国による輸出管理法などの対外経済政策と日本企業の対応
- M&Aによる企業価値向上戦略のポイント
- 日本企業のイノベーションの在り方
Ⅰ. 2021年の世界経済を読む
K字型回復のリスク
―― 新型コロナウイルスの感染拡大で、2021年の経済は不透明感が強くなっています。国際通貨基金(IMF)は20年10月の世界経済見通しで、20年を実質で4.4%のマイナス成長と予測しましたが、その後、欧米で感染再拡大が加速し、歯止めをかけるための外出制限や店舗の営業規制が広がっています。これに伴って、先進国は景気の底割れを防ぐために大胆な財政支出を行ってきました。21年の経済リスクについて高橋さんはどのように見ていますか。
「世界経済の見通しについては、基本的に20年はマイナス成長でしたが21年はプラス成長に戻る。つまり、新型コロナの影響が徐々に弱くなっていくと見ています。この想定は、感染拡大の抑制と経済活動再開の両立がある程度できていくこと、ワクチンが普及していくことが前提です。IMFをはじめとした各機関の見通しもその前提で立てられていると思います。それが標準シナリオだとすると、それに対するリスクとしては、まず新型コロナが考えられているほど簡単に抑制できずに、ストップアンドゴーが続いていくということです。
その際の問題は、新型コロナ禍の影響に脆弱なセクター、あるいは階層的に見て低賃金の状態に置かれていたり、失業状態にある人々の生活状況がさらに厳しくなることで、それが結果的に経済の足を引っ張るというリスクがあります。米国では“K字回復”といわれ、経済が2極化していくという予測が出ています。ただそのK字回復の先にあるのは、Kの下向きの部分が全体を押し下げてしまうリスクです。したがって、ワクチン接種が普及し始めてもまだ経済全体に下押し圧力がかかる可能性があるということがまず第1点です。
2つ目に、20年の経済成長率はマイナスですが、どこの国にも共通しているのは民間部門の落ち込みに対して政府がすさまじい量の資金を注ぎ込んで支えたということです。例えば、日本ではコロナ対策の財政支出によるGDP押し上げ効果は20年度に35兆円分発生するものの、21年度に財政の支えがなければ景気の下降は避けられません。そこで、政府は20年度の追加経済対策に加え、21年度についても一般会計総額約106兆6097億円と、過去最大の予算案で新型コロナウイルスの感染長期化に対応しようとしています」
―― かつて米国のバーナンキ元FRB(連邦準備制度理事会)議長が、財政支出が止まると経済が転落するという「財政の崖」について指摘したことがあります。
「おっしゃるように、財政の崖が発生するリスクがありますが、21年度についてもかなりの財政出動を避けて通るわけにはいかないでしょう。そこで、リスクの3つ目として、IMFも指摘している債務のリスクが挙げられます。とりあえず足元では一種のばらまきで全てのセクターを支えるという政策になっています。こういう状態が長引くと採算の悪い部門、生産性の低い部門までもが温存されて、結果的に将来の成長率が低下していくというリスクも懸念されます。また、債務が膨らんでバブルが崩壊することによって、かつて世界が経験してきたような債務崩壊のリスクも無視できません。
ただ私は、こうしたリスクが21年に差し迫ったものになるかという点で言うと、