[寄稿]

2013年9月号 227号

(2013/08/15)

海外企業の企業価値評価の基礎

 鈴木 一功(早稲田大学大学院ファイナンス研究科 教授)
  • A,B,EXコース

1.はじめに

  本稿では、クロスボーダーM&A取引において、海外企業の企業価値評価を実施する際に、どのような手法が用いられているかについて、特にエンタプライズDCF法を中心に概観する。本誌の座談会において、実際に本稿で紹介する手法がどのように実務の現場で用いられているのか、実務で実施する場合の問題点は何か、について議論されているが、読者がその内容を理解する上での一助になれば幸いである。

  一般にM&A取引においては、将来の業績予測を詳細に行い、予測財務諸表に基づいて事業価値を算定し、そこから株式の理論価値を算定するエンタプライズDCF法が、企業価値算定手法の一つとして利用されることが多い。また、エンタプライズDCF法に加えて、他の企業価値算定手法として、マルチプル法【類似企業株価比較法】も用いられるのが通常である。

  エンタプライズDCF法においては、将来の予測営業フリー・キャッシュフロー(NOPLAT【税引後営業利益】から、業績の成長のために必要な追加純投資を差し引いたもの)を加重平均資本コスト(WACC)で割り引いて、企業の事業価値(本業の価値)を求めるという作業が主要な部分を占める。通常予測営業フリー・キャッシュフローは、5~10年の予測財務諸表を作成し、そこから求める。予測期間以降の営業フリー・キャッシュフローについては、企業が営業活動を将来に渡って継続し、キャッシュフローを生み続けるという前提の下で、「継続価値」として公式を用いて一括計上する(たとえば、5年間の予測財務諸表を作成した場合の手順については、図1を参照)。

図1: エンタプライズDCF法の流れ

  この際用いられるWACCは、有利子負債の資本コスト(借入コスト)と、株主資本の資本コストをそれぞれの時価の比率を用いて加重平均することで計算される。
 

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