[寄稿]
2014年4月号 234号
(2014/03/15)
1. M&A取引におけるDDの位置付け
ソフトバンクによる米大手携帯電話会社スプリント社の買収や、サントリーによる米蒸留酒大手ビーム社の買収など、日本企業による大型M&Aが新聞紙面を賑わす機会が増え、また、日本企業の中期経営計画の中にも“M&Aの活用”という文字を多く見かけるようになった。ほんの10年程前までは、「M&A」というと買い手は乗っ取り屋、売り手は事業が自分たちの手に負えないくらいまで痛んでしまい、仕方なく行うもの、といった印象が強かったが、最近では、企業の経営戦略実現の手段として当然のように活用されており、隔世の感がある。
M&Aは、企業あるいは企業が行っている事業そのものを対象とする取引である。買い手(新株主)は、対象会社・事業から得られる収益の還元を受ける権利を持つが、一方で対象会社・事業の持つリスクに対しても全面的に責任を負うことになる。
M&Aは「時間を買う」取引であると言われる。対象となる事業を現状の段階までに育てるためには、新規に設備を取得(投資)し、社員を採用・育成し、顧客を開拓し、競合に勝つために新製品の開発を続け・・・と、あらゆる投資・営業活動を実施しなくてはならず、「時間を買う」という言葉は、それらの時間を費やす苦労を経ることなく一定の規模・内容の「出来上がった事業」を手に入れることができるという点で、良い意味で使われていることが多い。
しかし、(過去の)時間を買うということは、当然に(過去からの)事業活動を継続してきた中で発生していた潜在的なリスクも自社が引き継ぐことになる点を忘れてはならない。
また、一定程度の「出来上がった事業」を買収したと考えていたら、実は想定していたほどの収益力がなかった、ということも考えられる。M&Aで時間を買えて良かったと思ったら、その時間には思わぬリスクが含まれており、結果それらを全部背負い込んでしまった、ということになりかねない。
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