[寄稿]
2014年8月号 238号
(2014/07/15)
本稿は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 清水勝彦教授と、あらた監査法人およびプライスウォーターハウスクーパース株式会社による「日系企業のグローバル化に関する共同研究-新興国での成功への示唆に向けて」を踏まえ再構成したものである(注1)。
1.グローバル化の途上にある日系企業
近年、日系企業の成長のためには経営のグローバル化を進めることが必要であると叫ばれている。「グローバル化(globalization)」という言葉の定義はさまざまであるが、「経営のグローバル化」とは経営活動を国境や地域の垣根を越えて全地球的に広げていくこと、あるいはその過程のことと言えそうである(注2)。一方、日系企業は欧米企業に比べて経営のグローバル化が上手く行っていないという論評も聞かれる。
企業成長のために海外市場、特に新興国市場の成長力を享受するべく、自社のオペレーションを全地球的に広げていくことが必要である、という主張に異論はないだろう。しかし、日系企業の経営のグローバル化が上手く行っていないという点はどうか。
海外に進出している日本企業の業績をみると、経営のグローバル化が上手く行っているかどうかは疑わしい。世界・アジアの市場成長率を上回るペースで成長し、かつ高収益を上げている企業は少数派である。日本の諸セクターのうち最も海外展開が進んでいる電機・機械・精密機器セクターの大手企業でさえ、その多くは海外売上高成長率が世界・アジア市場の成長率を下回るか、グローバル企業の収益性を下回る(図表1)。
とりわけアジアを初めとする新興国では、欧米企業だけでなく、地力をつけてきた新興国企業が日系企業の競争相手となりつつある。市場参入や市場シェアの拡大が思うように進まず、新興国市場での売上・利益目標を何年かかっても達成できない企業もあれば、早々に撤退を余儀なくされた企業もある。
もちろん、欧米企業がみな海外市場で常に成功しているわけではない。政治・政策リスクが高く、市場もサプライチェーンインフラも成熟していない新興国市場の攻略はなおさら難しい。しかし、そのような困難の中で経験を積み、「次に生かそう」としている(注3)。
その点、日系企業も経営のグローバル化のための経験を積んでいるところなのであろう。逆に言えば、少なからぬ日系企業が上手く行っていないのなら、その経験を積む中で直面している共通の課題があると推察される。
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