北尾 吉孝(きたお・よしたか)
1951年兵庫県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年には英国ケンブリッジ大学経済学部を卒業し、野村證券事業法人三部長を経て、95年孫正義氏の招聘でソフトバンク入社、常務取締役に就任。99年より現職。証券・銀行・保険等の金融サービス事業や新産業育成に向けた投資事業、医薬品開発等のバイオ関連事業などを幅広く手がけるSBIグループを統轄する。公益財団法人SBI子ども希望財団理事、SBI大学院大学の学長も務める。近著『挑戦と進化の経営 SBIグループ創業二〇年の軌跡』(幻冬舎)など著作多数。
3年前から築いてきた地域金融機関との密接な関係
―― 人口減少や超低金利環境の長期化で金融機関の収益力が悪化しています。実際、2019年3月期は、地方銀行の半分で本業の利益を示すコア業務純益が前期実績を下回り、上場する地銀の約7割が減益か赤字決算となっています。こうした中で、SBIホールディングス(以下SBIHD)は、9月に島根銀行の
第三者割当増資 に応じ、傘下ファンドを含め25億円を出資するという資本・業務提携(出資後のSBIグループの議決権比率は合計34.00%)を発表し、さらに、11月には福島銀行とも資本・業務提携(出資後のSBIグループの議決権比率は合計19.25%)を発表するなど、厳しい経営環境にあえぐ地方銀行への出資を強化しています。「第4のメガバンク構想」とも言われるこのプログラムはいつごろから考えておられたのですか。
「我々が何故、地域金融機関に着目し、お役に立ちたいと考えたのかと言いますと、地方創生が国家の重要な目標であり、戦略であるからです。安倍政権は地方の創生なくして日本の成長はないと言っています。この国家戦略に貢献するために、SBIグループとしてどのような戦略を推進するべきなのかを考え続けてきました。
我々の武器はテクノロジーです。SBIグループは創業以来20年間、インターネットをはじめとしたテクノロジーを利用して、証券業界から出発して様々な領域にビジネスを拡大してきました。現在証券業界では、野村證券や大和証券といった大手の対面証券会社を全部合わせても国内株式の個人委託売買代金に占めるシェアは10数%しかありませんが、我々はSBI証券1社で30数%のシェアを獲得しており、この20年の間にリテールマーケットの勢力図を一変させました。それぐらいテクノロジーの持つ力は大きいということを我々自身が身に染みて理解しているのです。そしてこの力を地域金融機関の皆さんにも様々な形で使っていただこうと考えました。とりわけ重要なのはフィンテックの技術であり、これを用いて地域社会に変革をもたらし、地域経済の活性化、延いては日本経済全体に好影響を波及させたいというのが私の最大の願いです。
そこで、約3年前から地方創生に向けたビッグピクチャーを描き、SBIグループ各社と地域金融機関との業務提携等を通じた関係強化を推進し、信頼関係を構築してきました」
3つのフェーズ
「地域金融機関との親密な関係構築は3つのフェーズで進めました。まずフェーズ1は、SBIグループの事業会社各社がすでに提供している多様な商品やサービスを、地域金融機関にご活用いただいくことによって、
企業価値 の向上に貢献するというものです。フェーズ2は、新設した『SBIネオファイナンシャルサービシーズ』を中心に、SBIグループの投資先ベンチャー企業等が保有する先進的なテクノロジーを地域金融機関に拡散し、ビジネスモデルの再構築を支援するというものです。そしてフェーズ3は、地域金融機関の全国展開に向けてSBIグループが全面支援する新会社を設立し、一部業務(KYC〈Know Your Customer(顧客確認)〉、AML〈Anti-Money Laundering(マネーロンダリング対策)〉の共通システムの開発導入、フィンテック技術の共同導入、内外投融資機会の共有化等)を地域金融機関と一体的に運営する体制を構築することです」
フェーズ1:地域金融機関向けに商品、サービスの活用を促進
―― 「第4のメガバンク構想」の下地作りに3年かけられたわけですが、具体的にどのような成果が出ていますか。
「フェーズ1の成果として、例えば証券関連事業でいいますとSBI証券の金融法人部を通じて延べ317社の顧客金融機関に株式や債券、あるいは投資信託など様々な金融商品を紹介し取引を拡大していきました。それによって金融機関のお客様にとって、今までよりはるかに多い選択肢の中から自分が気に入るものを選んでいただける形になっています。例えば、我々は