1. 地政学リスクの投資活動への影響
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に続き、2023年10月に勃発したガザ地区とイスラエルの紛争は、地政学的リスクをさらに拡大させ、世界経済の新たなリスク要因であると認識されている。その1つは、物価高への対応としての、各国における貿易介入による市場の分断である(注1)。「今日のグローバル経済は、各国がさまざまな相互依存関係を構築することで発展してきた。その複雑なサプライチェーン構造の下では、チェーンの一部が遮断されただけでも需要と供給のバランスが崩れ、世界各国に甚大な影響が及ぶ。特に、地政学的リスクの高まりは、米ドル独歩高の進行や一次産品を中心に物価高騰をもたらし、世界経済に深刻なダメージを与える。地政学リスクが高まるなか、既存の相互依存関係を見直し、新しいグローバルな生産体制を再構築することは、日本経済が取り組まなければならない大きな課題である。」(注2)との分析に見られるように、世界レベルでも、リショアリング(設備投資の国内回帰)、フレンドショアリング(友好国での設備投資)、ニアショアリング(近隣国への設備投資)といった、供給網再構築の動きが観察されている(注3)。
国際協力銀行が2023年12月に公表した、「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2023年度 海外直接投資アンケート結果)では、わが国製造業の海外事業展開は、コロナ禍からの回復傾向を維持するも、地政学リスクの高まりや中国経済の減速傾向等を背景に、強化・拡大姿勢はやや鈍化する見通しであるとの分析が示されている(図表1参照)。
■筆者プロフィール■
荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。