1.ファイナンス理論におけるリスクとは 本連載の第4回では、
割引率は、資本コスト、ハードル・レートなどと様々な呼び方があること、そして割引率の本質を表わすのは、資本の機会費用という呼び方であり、その機会費用とは、投資家が類似の投資から得られる期待収益率(期待リターン)であることを説明しました。また、類似の投資とは、同程度のリスクを持った他の投資ということ。したがって、金融市場における他の同程度のリスクを持った投資機会が、どの程度の収益率(リターン)を上げることが期待されているかがわかれば、それが資本コスト、割引率となることも示しました。
それでは、他の投資が同程度の「リスク」を持っているかどうかは、どのようにして計測されるのでしょうか。そもそも、リスクが高い、リスクが低いといったことを、どのように客観的に数値化できるのでしょうか。今回は、リスクについて、ファイナンス理論がどのように考え、数値化しているかについて、その概要を説明していきます。
ファイナンス理論において、リスクがあるということは、将来発生する投資収益率(リターン)が確実ではない、不確実性があることを意味します。一般に「リスク」というと、悪いことが発生することを示しているようなイメージがありますが、ファイナンス理論においては、平均的な結果以上に良い収益率が得られることも、悪い収益率が得られることも、同じようにリスクと呼びます。それでは、この収益率の不確実性としてのリスクについて、次のような事例で実際に考えてみましょう。
いま今投資家にとって、資産1、2、3という、3つの1年限りの投資資産の選択肢があるとしましょう。これら投資資産は、1年後の景気次第で投資の収益率が変わるとします。話を単純化するため、1年後の景気には、好景気、通常景気、不況の3つのパターンしかなく、同じ確率(33.3%, 3分の1ずつ)でどれかが起こるとする。それぞれの投資資産の …
■鈴木 一功(すずき かずのり)早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授
東京大学法学部卒業後、富士銀行入社。INSEAD(欧州経営大学院)MBA(経営学修士)、ロンドン大学(London Business School)金融経済学博士(Ph.D. in Finance)。M&A部門チーフアナリストとして、企業価値評価モデル開発等を担当の後、2001年から中央大学大学院国際会計研究科教授。2012年4月より現職。証券アナリストジャーナル編集委員、みずほ銀行コーポレート・アドバイザリー部のバリュエーション・アドバイザー。主な著書として『企業価値評価(入門編)』、『企業価値評価(実践編)』、『MBAゲーム理論』(いずれもダイヤモンド社)、他にコーポレート・ファイナンス、M&Aに関する論文多数。
※詳しい経歴は
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