[【DD】グローバルM&Aにおける非財務リスクへの対応(クロール・インターナショナル)]
(2019/03/06)
前回は、リスク・デュー・ディリジェンスの方法などについてご説明しましたが、今回は、実際にリスク・デュー・ディリジェンスを行った結果見つかったリスクの事例についてご紹介したいと思います。なお、初回にもお話しさせていただきましたが、具体的な企業の特定ができてしまう恐れがあるため、一部変更を加えて記載させていただいているところもありますのでご了承ください。ただし、見つかったリスクの内容については、変更を加えておりません。
日本企業の海外企業に対するM&Aの例
ケース1:幹部による利益相反行為の例
ある日本の装置メーカーA社は、中国にある装置メーカーB社の買収を検討していました。B社とともに、同じく中国にある子会社C社も買収することになっていましたが、その子会社C社は非常に業績が悪く、また、従業員の数が短期間で極端に減っているという状況でした。買い手であるA社が、マネジメントインタビューの際にB社のマネジメントにその背景を聞くと、「現在の市況のせいで業績が悪化し、それに伴って人員削減を行った」という回答でした。ところが、その後、リスク・デュー・ディリジェンスを行ったところ、この子会社C社の幹部は、会社の金を私利私欲のために使い込んでいたほか、それに気づいて指摘をした部下など、その幹部にとって面白くない部下を手当たり次第に解雇していたという事実が判明しました。さらに、驚くべきことに、この子会社の社長は、会社の買収話が出た頃に、自身の会社C社と同じ業容の会社を設立し、C社の主要な顧客をすべてこの新会社Dに引き抜いていたほか、優秀な人材についてもまるごとD社に引き抜いており、そのためにC社の人員が極端に減るとともに業績が落ちていたということが判明しました。日本企業A社は、結局この子会社幹部の利益相反行為により、本件買収は取りやめることにしました。
ケース2:贈賄行為の疑いがあった例
ある日本のコンサルティング会社E社は、東南アジアにあるコンサルティング会社F社の買収を検討していました。当該コンサルティング会社は、現地でのマーケットシェアも高く、また行政機関や公共施設からの受注も多く、信用度としては申し分ないと考えていました。ただ、E社としては、大型の買収となることから、念のためにリスク・デュー・ディリジェンスを行ってみることにしました。その際、E社としては、特に「業界の中でのF社はどう評価されているか」というレピュテーションに着目してリスク・デュー・ディリジェンスを行うことにしました。すると、現地でのレピュテーションとして、「確かに規模は大きいが、競合他社のG社やH社に比べると、圧倒的にサービスの質がよくない」という声が聞かれました。では、なぜ質が高くないにもかかわらず行政機関からの発注が多いのかという疑問がわいてきます。そこで、さらに調査を進めると、このF社のオーナーは親族に政府関係者がおり、その政府関係のコネを使って行政機関から多く受注をしているほか、袖の下を使って受注もしているということがわかりました。クライアントとしては、そもそも贈賄行為をして受注しているという大きな汚職リスクがあること、また買収後に改革して贈賄行為なくして受注を増やそうとするには、営業力やサービスクオリティが足りないということから、本件買収は取りやめることにしました。
ケース3:反社会的勢力との関係が確認された例
ある日本のサービス企業I社は、東南アジアにあるJ社の買収を検討していました。法務デュー・ディリジェンスを行う過程で、このJ社のオーナーは、別会社で風俗業やホテルを営んでいることがわかり、I社としては、この別事業自体は買収対象にはならないものの、業界として反社会的勢力のリスクがあるのではないかと懸念して、リスク・デュー・ディリジェンスを行うこととしました。その結果、その懸念は見事にあたりました。そのJ社のオーナーは、若いころから現地のマフィアと関係が深く、金に困ったときなどはマフィアから資金提供を受けるなどの恩義があったことから、今でも関係が続いており、今でもマフィアによる犯罪行為を間接的に支援している、ということがわかりました。もちろん、I社としては、いくら買収対象の企業とは資本関係がなくとも、同じオーナーの有している会社を買うわけにはいかないということで、本件買収を断念しました。
ケース4:関係者にマネーローンダリングの疑いがあった例
ある日本企業K社は…
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[対談・座談会] 2018年03月15日(木)
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