始めに
ビジネスに関わる人の多くは、企業の合併・買収(M&A)に関しては一定の知識を持っているかと思います。ただ、その中で、「コミュニケーション(PR)・アドバイザーがどのような役割を果たすのか?」という点は、あまり広くは知られていないかもしれません。
弊社は、クロスボーダーのM&A案件で、主に買い手側企業のコミュニケーション・アドバイザーとして数多く関わっています。今回は、M&Aにおけるコミュニケーション(PR)の対象、タイミング、内容とそのポイントについて、説明します。
M&Aにおけるコミュニケーションに絡む関係者
コミュニケーション・アドバイザーから見た場合、M&A案件におけるコミュニケーションに絡む主な関係者は、以下の通りです。
1. クライアント企業
コミュニケーション・アドバイザーは主にコミュニケーション担当者とやり取りをしますが、会議などは(特に発表直前・直後では)、M&A担当者や法務担当者も入って、詰めることが多々あります。
案件によっては、クライアント企業との会議の際に同席し、発表のタイミングや内容をすり合わせます。
3. ターゲット企業
案件によっては事前に、ターゲット企業のコミュニケーション担当者(または/および、コミュニケーション・アドバイザー)と、発表のタイミングや内容をすり合わせます。
4. コミュニケーション・アドバイザー
クロスボーダーM&A案件の場合、クライアントが雇うコミュニケーション・アドバイザーは、グローバルで一貫したエージェンシー(またはネットワーク)の場合と、各国で個別案件に強いエージェンシー(ブティック)を雇い、クライアント側でエージェンシーを束ねるという場合があります。
いずれの場合でも、コミュニケーション・アドバイザーに求められる役割は、他の関係者、他マーケットの担当者と協調を図りつつも、自マーケットのコミュニケーション特性(他国との違い)をきちんと説明し戦略を立てること、そして、時差を念頭に置きながら、できる限り迅速な(遅滞のない)対応をすることです。
ちなみに、日本のコミュニケーション特性として海外クライアント企業に説明し、よく驚かれるのは、「記者クラブ」制度と「FAX配信」文化です(これらは説明すると長くなるので、ここでは割愛します)。
M&A取引に関する発表タイミングの山場
M&A取引に関する発表タイミングの山場は、大きく分けると3つあります。
1. 取引合意に関する発表
取引合意の発表は、取引に関わる両社(複数社)が、取引条件と今後の進め方の概要に関して法的な意味で合意に至ったことを意味します。
この、合意に至った事実と、それに伴う対外発表が、多くの場合、発表における最大の山場であり、ステークホルダーから寄せられる関心も最大となります。
合意発表に向けたコミュニケーション・アドバイザーの主な役割は、どのようなタイミングで、どのようなコンテンツを、どのような手段で出していくかを計画・助言(実行)することです。これには、プレスリリースの配信、記者会見の実施、社内ミーティングの実施(または従業員向けメッセージの配信)、取引先への連絡(またはメッセージの配信)などが含まれます。
取引の完了(クロージング)とは、例えば株式譲渡による買収スキームの場合でいうと、現金と対象会社株式の受け渡しが買い手と売り手の間で行われ、法的に経営権が移転することです。…
■筆者履歴ダン・アンダーウッド(Dan Underwood 最高経営責任者)ウェリントン・スクール・オブ・ジャーナリズムならびにオタゴ・スクール・オブ・フィジオセラピーを卒業。オタゴ大学より物理療法免許取得。1998年日本に拠点を置くまでの7年間はフリージャーナリストとして、ニュージーランドとオーストラリアの媒体向けに幅広く執筆活動を行う。2002年に共同出資パートナーとしてアシュトン・コンサルティングの経営に参画。ジョン・サンリーと共に、多様な顧客基盤、バイリンガルな企業文化、そして幅広い知見を有する日本有数のクロスボーダーのPR企業へと牽引。日本語に堪能で、多岐に渡る業界の顧客にアドバイスを提供する中、特にM&Aコミュニケーション危機管理対応のチーム統括に加え、メディアトレーニングや幹部向けスピーチトレーニングを行っている。