[視点]

2024年2月号 352号

(2024/01/15)

実質株主開示を巡る視点 〜発行会社・株主・投資家間の情報の平等

山田 剛志(成城大学 法学部 教授・弁護士)
  • A,B,EXコース
1. 問題の所在 〜実質株主開示の状況及び課題

 現在多くの上場企業が信託銀行などを通じて、実質株主調査を行っているが、多額に費用がかかる上に、全ての株主が明らかにならない。コーポレートガバナンス・コードが改正され、株主との対話が義務化されたため、発行会社IR部にとり市場との有意義な対話は喫緊の課題である。しかし目の前にいる「株主と称する人」が本当に株主か、確かめる手段がない。実質株主を確かめる手段がない状況で、意味のある株主との対話ができるだろうか。

 上場企業の株主は、「大株主の状況」として、発行会社から通常半期報告書として半年に1度開示されるが、現在は保管する金融機関名で開示されていて、一般株主や、発行会社からみても、実質株主が誰か不明な状態だ。表1の通り、通常は信託口(注1)と呼ばれる保管銀行名義で大株主の状況が開示される。また海外投資家は、グローバル・カストディアン(注2)という金融機関名義で開示される。

表1(A会社の大株主の状況)23年9月末現在
株主名所有株式数所有株式数の割合
日本○○信託銀行(信託口)450,00022%
○○カストディ銀行(信託口)320,00015.7%
○○Street Bank226,00011.1%
State Client ○○ Bank180,0008.9%
○○Omnibus Account166,0008.2%
 ・・・・
上位10社の合計2,030,00082.8%

(出所)筆者作成

 もちろん実質的には、国内外の機関投資家やファンド、金融機関が保有しているが、株主側の開示は進んでいない。これでは、支配権に影響を与えるような株式取得や保有状況があっても、実質株主が誰かも分からない中で、発行会社は5営業日後に大量保有報告または変更報告書がEDINETを通じて開示されるのを待つしかない。つまり、支配権が変更されうるような状況に即座に気づくことができないのだ。

 また、東証の市場再編やコーポレートガバナンス・コードが普及するにつれて、政策目標として機関投資家、金融機関、事業会社の株式持合が解消され、海外の機関投資家やファンド等の資金が多く流入し、上場企業の株式保有状況がより複雑化している。このような状況で、証券保管振替機構(ほふり)からの中間と期末の実質株主の通知(「総株主通知」)を元に作成したのが、前述の表1のような大株主の状況である。信託銀行から実質株主名簿の上位100社の情報が送付されてくるので、発行会社がそれに基づいて作成した中間報告書、有価証券報告書等が開示される。では、諸外国の状況はいかがであろうか。


■筆者プロフィール■

山田氏山田 剛志(やまだ・つよし)
1989年新潟大学法学部卒業後、銀行勤務を経て、1996年一橋大学大学院博士課程単位取得。同年新潟大学法学部助教授。2000−2001年コロンビア大学客員研究員(Visiting Scholar)。2004年弁護士登録(弁護士法人日新法律事務所代表)。2010年より、成城大学法学部教授。2011年論文博士(法学・青山学院大学)。現在日本瓦斯株式会社社外取締役、株式会社トップカルチャー社外監査役他

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