[M&Aフォーラム賞]

2012年12月号 218号

(2012/11/15)

第6回 M&Aフォーラム賞が決定

岩田一政選考委員長   岩田一政・選考委員長は「今年の最大の特徴は、小説形式によって海外および国内を舞台とするM&Aの実態を活写する優れた作品が応募されたことでした。日本企業による内外のM&A活動も欧米水準へとさらに深く、ダイナミックに展開してきていることを心強く思います」として、次のように講評を述べた。

    「小説形式の応募作品は、堀内秀晃著『ステークホルダー 小説 事業再生への途』と木俣貴光著『企業買収~海外事業拡大を目指した会社の660日』の2つでした。前者は、日本のメインバンクの銀行員の視点から、取引先企業が買収したアメリカ企業をどのようにして事業再生し、企業価値を向上させた上で売却したか、そのプロセスを活写しています。アメリカにおける実務、特に、事前の交渉、契約締結のプロセスや保有資産売却まできめ細かく叙述しています。後者は、企業経営者の視点から、海外事業拡大を目指した企業買収を小説形式で論じた作品で、臨場感があふれ、思わず自分が経営当事者であったらどのように判断するのか、はらはらしながら読みました。外国企業の買収には、事前のデューディリジェンスがいかに重要か身にしみる程よく分かる作品です。

   いずれも甲乙つけがたい力作でしたが、日本のメインバンクの役割や法律、商慣行とアメリカとの相違、とりわけアメリカにおいてターンアラウンド・ファーム、リクイデーション・カンパニー、DIPファイナンスに特化した部門を持つ投資銀行や企業再生ファンド、ディストレスト・ファンドなどM&A、企業再生に関連したビジネスがいかに拡大しているかを学ぶことができます。日本企業が内外の事業再生やM&A活動に携わるに際し、多くの示唆を与えてくれるという点で『ステークホルダー』に一日の長があると判断し、選考委員の満場一致でM&Aフォーラム賞の正賞とし、『企業買収』を奨励賞とすることを決定しました。

   また、小島義博・峯岸健太郎・藤田知也著『自社株対価TOBの実務上の諸問題』は、産活法改正により有利発行規制と現物出資規制の適用が回避可能になり、自社株対価TOBを実施する道が開けたことを踏まえ、その実務上の諸問題を法律の観点から懇切丁寧に解説し、今後必要となる立法提案を行っている優れた論文です。日本における自社株対価TOBを活用したM&A活動の発展に貢献する論文である点を評価し、奨励賞とすることに決定しました。

   さらに、日本では事前に買い手企業が売り手企業の株式を保有している合併・買収が多いこともあり、売り手企業が第三者のフェアネス・オピニオンを取得するインセンティブが低い状況にあります。しかし、高橋由香里著『フェアネス・オピニオン取得の決定要因と開示効果』は、日本においても事前の株式保有比率が低い場合、また外国人株主が多く、売り手企業の取締役会人数が多い場合に、フェアネス・オピニオン取得が増加する傾向があると論じています。日本でフェアネス・オピニオンの役割を実証分析した論文は数が少なく、先駆的な意義を評価して選考委員会特別賞の授与を決定しました」

落合誠一会長   また、落合誠一・M&Aフォーラム会長(中央大学法科大学院教授、東京大学名誉教授)は「世界経済は、08年のリーマンショックとそれにより引き起こされた欧州の債務危機に見舞われております。この欧州債務危機は貿易や金融というルートを通じて中国をはじめとする新興国の経済の下押し圧力ともなっております。我が国経済は、11年の東日本大震災の影響からようやく脱して回復の途上にあるといえますが、円高等の影響もあり未だ脆弱な状況にあります。

   このような環境の中、わが国のM&Aは国内案件(IN-IN)件数がようやく底打ちとなり前年比増加に転じました。海外への進出案件(IN-OUT)は依然として前年を上回る着実な増加傾向にあります。これは、円高を背景に海外のマーケット拡大を目指して日本企業が積極的に行動している結果といえます。このように、今やM&Aは企業の経営戦略として名実ともに定着してきおり、特に企業のグローバルな事業展開には不可欠なものとなってきたといえます。

   M&Aフォーラムも設立して6年余りが経過しました。徐々にではありますが活動の範囲も拡大しており、実績も積み上げられております。皆様には、本フォーラムの趣旨をご理解賜り今後ともご支援の程お願い致します」と述べた。

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