[藤原裕之の金融・経済レポート]

(2015/01/21)

明暗分かれる小売各社の業績

 藤原 裕之((一社)日本リサーチ総合研究所 主任研究員)
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品質重視の企業が好調

 昨年の消費増税を機に小売各社の業績が二極化している。2014年3~11月の第3四半期決算では、セブン&アイホールディングス、マルエツ、ローソンが好調を維持する一方、イオンやファミリーマートは減益となった。消費増税後の小売各社の戦略・スタンスの違いが、業績の明暗を分けたと考えられる。イオンは生活必需品約100品目を値下げるなど価格訴求を行ったのに対し、マルエツは銘柄牛肉など高品質な生鮮食品を投入する品質重視の戦略を掲げた。

 筆者は、どちらも決して間違った戦略ではないと考えている。価格訴求型の戦略は、増税による消費者の財布の減り具合を考慮した合理的な戦略である。しかし消費増税によって強まった消費行動の変化が、価格訴求型より品質重視型の商品の魅力を高め、後者の戦略を掲げた企業の業績が伸びたのは事実である。消費増税後の消費者行動の変化についてより深い理解が必要となっている。

増税と物価上昇で強まる選別志向

 消費増税をきっかけに強まった消費行動の変化とは何か。筆者は選別志向の強まりにあると考えている。選別志向とは、「同じものであればより安いものを買いたい」という節約志向と、「価値の高い商品であれば多少高くても支出してよい」という品質志向の、相反した意識が同居した状態を指す。選別志向が強まるきっかけは2013年以降の物価高にあり、これに消費増税が拍車をかけることになった。

 選別志向の強まりは、値上げに対する消費者の反応から導き出される。前と同じ商品の値段が上がったときに消費者はその商品をどう捉えるかという点を理解することが重要である。図表1は商品の「価格」と「品質・サービス」の関係を表したバリュー曲線である。価格フォーカス・ゾーンにある商品の魅力は安さ・値ごろ感にある。例えばA円の豚肉の魅力は「安さ」にあるとする。そこで以前と同じ豚肉の価格がB円に値上がりしたとする。物価の上昇はバリュー曲線が右側にシフトすることを意味する。消費者のこれまでの内的参照価格からすれば、B円の豚肉は従来なら品質フォーカス・ゾーンに入る価格帯である。価格フォーカス・ゾーンに入っていた豚肉がB円に値上がりした時点で品質フォーカス・ゾーンのスイッチが入るため、消費者の同商品に対する不満は強まるはずである。この消費者は同じ豚肉にB円を支払うなら、より高品質で安全な食材を揃えている別の店舗で購入しようと考えるかもしれない。

 このように、物価が上昇することにより、消費者の商品・サービスに対する目利きや感度、すなわち選別志向がより高まる。選別志向が高まることで、価格フォーカス・ゾーンや品質フォーカス・ゾーンに対する眼がより厳しくなり、前者のゾーンに対してはより割安商品を、後者のゾーンに対してはより高品質な商品を追い求めようとするはずである。前者は節約志向、後者は品質志向に対応する。

図表1 物価上昇を受けた消費者の反応(バリュー曲線)




   ■藤原 裕之(ふじわら ひろゆき)
略歴:
弘前大学人文学部経済学科卒。国際投信委託株式会社(現国際投信投資顧問)、ベリング・ポイント株式会社、PwCアドバイザリー株式会社を経て、2008年10月より一般社団法人 日本リサーチ総合研究所 主任研究員。専門は、リスクマネジメント、企業金融、消費分析、等。日本リアルオプション学会所属。

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