[特集インタビュー]

2013年7月号 225号

(2013/06/15)

官製ファンドはどうあるべきか――日本プライベート・エクイティ協会からの提言

 蓑田 秀策(日本プライベート・エクイティ協会 会長)
  • A,B,EXコース

蓑田 秀策(みのだ・しゅうさく)

官民の適切な役割分担を

-- 公的資金を使った官製ファンド、官民ファンド設立の動きが目立っています。その投資対象は製造業、農林水産業、不動産など広範囲で、大企業の再生から中小企業・ベンチャービジネスにまで及んでいます。企業が成長するためには、いわゆる「リスクマネー」の供給が必要です。官制ファンド・官民ファンドによるリスクマネーの供給は日本経済の活性化につながると期待される一方で、投資先の適切な選定、運用をどうするのかについて危惧を抱く意見もあります。

  こうした中で、日本プライベート・エクイティ(PE)協会*1が官製ファンド、官民ファンドのあり方に関して「我が国経済の本格的再生に向けた民間投資資金の積極的活用に関する提言」を公表しました。官制ファンドの投融資基準の厳格化などがその内容となっていますが、まず、提言を出された背景についてうかがえますか。

  「我が国の優先課題の一つは経済活性化です。おっしゃるように、そのためには産業再編や企業再建に必要なリスクマネーを十分に供給することが重要なポイントとなります。こうした環境の下で、政府及び関係各機関がリスクマネーの供給のために具体的な施策を実行しておられます。例えば、産業革新機構や企業再生支援機構などのいわゆる『官製ファンド』による日本企業の積極的な支援が増加しています。産業革新機構(現地域経済活性化支援機構)は、政府出資1420 億円に加えて政府保証枠1兆8000億円の財政措置という規模にまで拡大されていますし、企業再生支援機構については、同機構を『抜本的に改組し、事業再生ファンド・地域活性化ファンド等に対する専門家の派遣や出資等による地域の再生現場の強化や地域活性化に資する支援を行うための機能拡充を図り、[地域経済活性化支援機構](仮称)とする』旨の方向性が打ち出されました*2。

  また、今年1月11日に安倍政権の下で閣議決定された『日本経済再生に向けた緊急経済対策』においても、イノベーション強化のための日本政策投資銀行におけるファンドの創設、大学等による研究開発成果の事業化及びこれを目的とした投資を行う子会社の設立、大学発ベンチャー支援ファンド等への出資を可能とする制度改正の検討、 民間主体のまちづくりの支援として耐震・環境性能を有する良質な不動産形成のための官民ファンド創設等、複数の政府又は政府関連機関が主体となるファンドの設立又はその機能の拡充に関する記述が見られます。

  私ども日本プライベート・エクイティ協会は、日本企業および日本に基盤を持つ事業への支援を通じて、我が国経済の活性化に貢献できるよう活動してきました。日本経済を取り巻く環境の厳しさが増す中で、政府及び関係諸機関によるこうした積極的な取り組みについては、機動的な財政政策及び積極的な金融政策とあいまって企業業績の改善や業界の大規模な再編につながり、日本企業の国際的競争力の向上や地域経済の活性化を通じて我が国経済の本格的再生に向けた大きな一歩となるものと確信し、支持しております。

  しかし、市場メカニズムが正常に機能している場面において、政府および関係諸機関が民間との協働なしに成長分野を自ら探し出し成長資金を直接投じたり、問題を抱えた企業に対する出資を直接行って支援するのは民間との正常な役割分担を超える危険性があると考えています。政府および関係諸機関による経済復興政策は、本来的には制度設計や規制整備による市場機能の正常化・活性化にあるべきであって、それを超えて政策金融による投融資が行われたり、官製ファンドによる出資が行われるのは、市場におけるリスクマネーの供給が機能不全に陥って、市場機能に委ねているだけでは市場メカニズムが正常に働かず、公的な支援がない場合に比べて社会的コストが膨大になると判断される場合に限定されるべきだと考えています。*3また、そのような場合でも政府の緊急経済対策*4にも謳われていますように、政策金融などによるリスクマネーは、適切なガバナンス(統治機構)とアカウンタビリティ(説明責任)の下で、民間資金の呼び水として供給されるべきであって、官製ファンドが投資の主役となることで民間資金の活用の場を狭めるようなことがあってはならないと考えます。

   経済産業省告示として定められた『株式会社産業革新機構支援基準』*5にも明記されていますように、官製ファンドによる支援は民間事業者のみでは通常実現することが難しい事業活動を後押しするという視点を十分踏まえた上で、民間ファンドの活動を不当に妨げるようなことがないよう十分に配慮されなければなりません。また民間ファンドと協調して適切な役割分担を守りながら投資されるべきであると考えます。このような官民の本来的役割分担を超えた取り組みが政府および関係諸機関の主導によって行われてしまうと、いたずらに財政負担を増やし、ひいては国民負担の発生を招く危険性があるからです。以上のような背景と課題を踏まえて3つの提言を行いました」

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