[対談・座談会]

2014年6月号 236号

(2014/05/15)

[座談会] 欧米グローバル企業の対日M&A戦略とPMIの実際

~GE・ボッシュグループに見るグローバル企業のM&A~

 ヨアヒム・バチェフスキ(ボッシュ パッケージング テクノロジー 代表取締役社長)
 松江 英夫(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー)
 三浦 敦(日本GE 事業開発本部長)
  (五十音順)
  • A,B,EXコース

左から三浦 敦氏、ヨアヒム・バチェフスキ氏、松江 英夫氏

-- 政府は対日直接投資倍増計画のもと、その実現に向けた取り組みに注力していますが、その重要な手段である対日M&A(OUT‐IN)については、2013年にアプライド・マテリアルズと東京エレクトロンの経営統合といった大型の戦略的案件が出現したとはいえ、まだまだ欧米のM&A市場に比べるとそのウエイトは小さく、伸び悩みが続いています。その要因には、心理的抵抗感もあるとも言われますが、そうした中、欧米のグローバル企業の中には、対日M&Aを経営戦略実現のための重要な手段と位置付け、実行されている会社もあります。本日は、代表的なグローバル企業であるGEグループ、ボッシュ グループで対日M&Aを実践されている日本GEの三浦様、ボッシュ パッケージング テクノロジーのバチェフスキ様にご参加頂き、対日M&A戦略やPMIの実際について語って頂くこととしました。デロイト トーマツ コンサルティングの松江様には、PMIを含むクロスボーダーM&Aに関する深いご知見に加え、本座談会の司会・進行もお願いしております。よろしくお願いします。

はじめに

松江 英夫(まつえ・ひでお)松江 「デロイト トーマツ コンサルティングの松江です。デロイトは、監査、税務、ファイナンシャル アドバイザリー(FA)、コンサルティングなど、幅広いサービスをグローバルに展開していますが、私は、コンサルティング部門であるデロイト トーマツ コンサルティングの中でM&Aのコンサルティング部門を管掌し、M&Aの戦略やポストマージャーのマネジメントを中心にカバーしています。純粋なFA業務はグループ会社のデロイト トーマツFAが担当していて、そこと連携しながら案件を進めています。私自身は14~5年前から、組織に関するコンサルティングの専門部隊として、特にポストマージャーにフォーカスしながらいろいろな案件にかかわってきています。特に、ここ4~5年はクロスボーダー案件(IN‐OUT・OUT‐IN)が非常に多くて、本日のテーマであるOUT‐INにおいても、例えば、アメリカの企業が日本の中堅企業を買収したり、ドイツの会社が日本の小さな上場会社を買収した後のポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)やグループマネジメントに関するコンサルティングに携わってきました。今進行中なのは、米国と日本の大企業同士のグローバルな経営統合の案件です。時価総額や国の違いがあるなかで、対等の精神での統合を目指しているという意味で、チャレンジングなPMI案件だと思っています。

  さて、今日は、OUT‐INのM&Aの課題や成功のポイントについて、ざっくばらんにお話を頂ければと思いますが、私も、司会進行もやりながら、私なりの問題意識をぶつけさせて頂いて、意見交換ができればと思っています。よろしくお願いします。

  ではまず、三浦さんから会社紹介と自己紹介をお願いします」

三浦 「日本GEの事業開発本部長の三浦です。まず、会社の簡単な紹介ですが、ゼネラル・エレクトリック・カンパニー(GE)は、米国コネチカット州が本社で、2013年の売上高は約1460億ドル(約14.0兆円)、連結純利益は約141億ドル(約1.4兆円)です。発電・水、送配電、石油・ガスなどのエネルギー、航空機エンジン、運輸、医療、照明、金融サービスという8つの事業部門がありますが、一言で表現すると、主にインフラストラクチャー分野を中心とする製造業及び金融サービス業と位置付けられます。日本ではその内の7事業を展開しています。事業によって日本進出の歴史は違うのですが、GEとしては1886年から日本で事業展開しています。製造業では、エネルギー、ヘルスケア、航空機エンジンの3つが中心事業分野です。金融事業は銀行以外のいわゆるノンバンク事業ですが、日本では近年個人金融部門から撤退しましたので、法人向けのリースや投融資が中心です。日本の従業員は約4700名、売上規模も約4000億円ということで、日本はGEにとって非常に大きな市場です。また、日本には開発・製造の拠点がいくつかあります。特に、東京都日野市にあるヘルスケア事業の開発・製造部門には約1000人が従事しており、日本市場へは非常にコミットした形で事業展開しています。なお、GEは製造業と金融業の利益構成比率を7:3とする方向で事業ポートフォリオの組み換えを図ってきました。金融事業のウエイトが大きかった時期があるのですが、リーマンショックを境に金融事業を縮小する一方で、製造業を再強化するという戦略に転換し、日本も基本的にその戦略に沿っています。

  私はGEに9年以上在籍していますが、基本的に事業開発、すなわち企業提携やM&Aの仕事に携わってきました。ここ数年は、日本を含むアジアパシフィック(日本、韓国、台湾、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランド)の製造業に関わる事業開発を担当しています」

松江 「次に、バチェフスキさんからお願いします」

バチェフスキ 「ボッシュ パッケージング テクノロジー 代表取締役社長のバチェフスキです。当社の親会社はドイツのロバート ボッシュGmbHで、親会社の2013年度の売上高は約461億ユーロ(約6兆円)です。ボッシュには、自動車機器、産業機器、エネルギー 建築関連、消費財の4つの事業分野があって、日本にも幾つかの事業会社があり、当社は産業機器分野の中で包装機械事業を担うパッケージング テクノロジー事業部に属しています。パッケージング テクノロジー事業部全体の従業員はグローバルで約6000人おり、世界の包装機械業界でも大手の1つと言えます。主なユーザーは製薬業界と食品業界で、日本国内向けの包装用設備の製造が中心です。当社は2012年にエーザイの子会社であったエーザイマシナリーの全株式を取得しました。日本の包装機械業界では競合関係は中小企業が中心ですので、この業界でM&Aを成功させるためには中小企業の視点を持つことが非常に重要です。

  私は、ドイツ・アーヘン工科大学で修士を取った後、慶応大学の理工学部管理工学科に入学し、博士課程終了後に3年間同大学で教員として働きました。その後、1999年にロバート ボッシュGmbHに入社。ドイツ本社のパッケージング テクノロジー事業部の仕事を経験した後、デンマークの同事業を担う事業会社のムラー&デビコンに配属になりました。その会社は、私が配属になる2年前にロバート ボッシュGmbHが買収したばかりの中小企業でしたので、特にPMIで、何が上手くいって、何が上手くいかなかったかを学ぶことができ、また、その企業に残っていた前オーナー社長の気持ちを知ることもできました。ドイツとデンマークは地理的には近くても、やはり文化的な違いがあって苦労しましたが、PMIの大切さを学ぶことができました。2008年にパッケージング テクノロジー事業の日本法人社長に就任し、その後エーザイマシナリーの買収交渉を経験しました。2012年に買収した後はPMIに携わってきましたが、デンマークでの経験を生かすことができたのではないかと考えています。さまざまなハードルがありましたが、それを乗り越えて良い成功事例ができたと考えています」

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