[M&A戦略と会計・税務・財務]

2024年5月号 355号

(2024/04/09)

第200回 カーブアウトにおける人事イシュー

新田 克巳(PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. カーブアウトとは

 カーブアウトは事業ポートフォリオの再編・入れ替えや、自社内で立ち上げた新規事業を別会社として独立させる等の場合に用いられるM&A・組織再編の手法の1つだ。一般に、ある企業内の特定の事業・組織(部門・拠点等)を切り離すことを指す。また、子会社等のグループ企業を譲渡等によって自グループから切り離す時もカーブアウトと呼ばれる。本稿では主に前者を想定しつつ適宜後者についても言及するものとする。

 実際にカーブアウトの結果実現されるストラクチャーには様々な形態がある。グループ会社がそのまま他社に譲渡される場合には買い手企業の傘下に子会社等の形で入ることになるのが一般的だが、企業内の特定の事業・組織のカーブアウトのケースでは、
  • カーブアウトされた事業・組織がスタンドアローンの独立した法人となる
  • カーブアウトされた事業・組織が自社グループ内外の他社の一部として取り込まれて統合される
  • 複数の企業からカーブアウトされた事業・組織同士が統合して1つの法人となる
  • カーブアウトされた事業・組織がスタンドアローンの法人となった後に他社に譲渡される
 等の形がある。

 こうしたカーブアウトにおいては、「人」に関する要検討・要対応事項が少なからずあり、カーブアウトに関わる上では十分な理解と対応力を有しておく必要がある。本稿ではカーブアウトに際しての人事イシューとして、「人材の移管」とカーブアウトに伴って発生する「カーブアウトイシュー」(いわゆる「スタンドアローンイシュー」も含む)の2つについて解説する。

 なお、本稿では企業内の事業・組織を切り出すケースについて、対象事業・組織のカーブアウト後の会社を「新会社」と表現する(既存の他社に取り込まれた場合でも取り込まれた後に新たな会社となったと考える)。また、切り出しが行われる前の会社を「元企業」、対象事業・組織が切り出された後に残存する会社を「存続企業」(「元企業」-「対象事業・組織」=「存続企業」)と表現することにする。

 本稿においては基本的に国内の法令・慣行をベースに述べるが、クロスボーダー案件や海外案件においてもほぼ同じ論点があり、各国の法令等によって対応の仕方が変わってくるとご理解いただければ幸いである。

2. 人材の移管

 企業内の特定の事業・組織をカーブアウトする際には、どのようなやり方で対象となる人材を移管させるかは重要な論点になる。人材移管の手法としては一般に以下の3つがある。

(1)出向
(2)転籍
(3)承継

 ここで言う「出向」は


■筆者プロフィール■

新田 克巳

新田 克巳(にった・かつみ)
ディレクター、 PwCアドバイザリー合同会社 専門分野:人事・人材マネジメント
事業会社にて海外営業・人事企画・新規事業開発等に従事後、コンサルタントに転身。その後複数の大手総合コンサルティングファームを経てPwCアドバイザリー合同会社に入社。20年以上にわたり、主にM&A・組織再編や事業再生等の企業変革局面における人に関する問題解決・課題遂行についての支援・助言を幅広く提供。

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