[【小説】新興市場M&Aの現実と成功戦略]
2018年3月号 281号
(2018/02/15)
(前回までのあらすじ)
三芝電器産業の朝倉俊造はインドへの赴任を命じられた。1年半ほど前に買収したインドの照明・配線器具メーカー(Reddy Electricals)への出向である。
インド固有の課題に悩まされ、そして創業家側の旧経営陣との軋轢を生みながらも、朝倉の先輩である日本人出向者達は、生産革新や流通改革に矢継ぎ早に取り組んでいった。
朝倉の赴任も数カ月を過ぎた頃、インド全国への視察を終えた営業管理担当の小里陽一が本社に戻ってきた。そして小里のサポートを命じられた朝倉に対し、「代理店制度の廃止に加えて、抜本的な営業改革を断行したい」と言い放ち、朝倉にボード・ミーティング向けの企画書を作成させた。
苦労しながらも何とか企画書の承認を勝ち得た朝倉は、すぐに改革を走らせようとする。しかし三芝電器には直営営業所の営業ノウハウが存在しない。本社からのサポートを得られなかった朝倉は、新入社員当時に実習で派遣された故郷の諫早電器店に電話した。そして10年以上前に研修で世話になった店主から、県内で優秀系列店として有名だった佐世保電器店の岩崎を紹介された。岩崎は腹心の古賀を連れてムンバイの地に降り立った。そしてレッディ社の直営店舗に対する、岩崎と古賀からの非公式な教育が開始された。
そんなある日、本社に戻った朝倉は営業担当取締役である小里に声をかけられ、目下の営業改革について議論が始まった。議論は狩井宅での恒例の合宿議論に持ち越され、最終的に本社から投資を呼び込む手段としてコモンウェルス・ゲームズが活用されることになった。全員が一丸となり本社や関係会社との折衝に取り組んでいる中で、今度は製造管理担当の伊達から狩井に納入部品に関する問題提起がなされた。
日本では考えられないようなトラブルに日々見舞われていたが、狩井はじめ日本人駐在員は徐々にインドでのビジネスの手ごたえをつかみつつあった。そしていよいよ、新たな外部の血を取り込みながら、本格的なPMI=M&A後の経営改革の幕が明けた。
週明けすぐの招集
土曜午後に急きょ招集された「課題共有検討会」は、白熱した議論が続いたため終了時間を大きく超過し、19時過ぎにようやく幕を閉じた。終了後は予定通り会議室にキングフィッシャー・ビールが運ばれ、ささやかな打ち上げも行われた。
そして週明け月曜日、製造本部と営業本部、そしてコーポレートの3つの本部では、管掌役員の指示の下でそれぞれ緊急会議が開かれた。それぞれの会議では、土曜日にあぶりだされた課題の再整理を行うとともに、優先順位付けと対応策検討が着手された。
課題共有検討会では、ヘッドハンティング組を中心に外部のフレッシュな目線で様々な問題提起がなされた。もちろん従前から本部内で似たような議論は行われており、提起された問題自体は目新しいものではなかった。しかし検討会では体系的かつ網羅的に問題が整理され、結果的に各本部の抱えている課題の深さがより一層明確化された。
しかもこれまでは本部内の閉じた議論がほとんどであり、自部門の課題が大っぴらに他部門の目に触れることはなかった。意図的に隠すつもりがなくとも、普段は自部門の課題などを積極的に開示することはしないからだ。しかし検討会では、全社部長級以上の前で、自部門が抱える課題や惨状などが白日の下に晒された。
晒されるということ
目についた断片情報ではなく、体系的・網羅的に課題が棚卸されたこと。そして他部門にまでそれが共有されたこと。この2つの事柄は、その後の改革推進に大きなプラスの影響を及ぼすことになる。
幹部社員全員が課題の大きさ・深さを共有し、解決策の方向性まで共通認識を持つことができたことは、まさに改革の「ベクトル」を合わせることにつながった。物理法則と同じで、バラバラの方向性を持つ物質を単に集めただけでは、それらは相互に打ち消し合い、結果としてエネルギーは大きくロスをする。しかし方向を同じに定めれば、それらは増幅するのだ。しかも課題の根深さを共有できれば、個々人の熱量を最大限まで高めることにもつながる。結果として組織の改革推進力は最大限まで高められたのだ。
そして組織が抱える問題が、自部門に閉じずオープンにされたことで、取り組みへの必死さや優先度が高まり、解決までのスピードが上がることになった。企業に限らず学校でも家庭でもそうだが、その枠内でしか共有されていない問題というものは、「わかっちゃいるけど、やめられない」という形で許されがちだ。同じ穴の狢とでもいうべき甘えが生じ、「解決は難しい」「いずれ解決しよう」という言葉が繰り返される。結果として解決に向けたアクションがなかなか着手されず、着手されても本腰を入れた取り組みにはなりにくい。
しかし問題点が組織外に晒されると
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