日本や欧米のような先進国においては公開買付のあり方がよく議論されるが、東南アジアにおいても公開買付制度は整備されており、上場会社を対象とするM&Aにおいてはそれぞれの国における制度をよく理解する必要がある。今回は東南アジアの中でも制度が類似するシンガポールとマレーシアの2カ国を選定し、筆者が今までに
FAを務めさせていただきました案件を通じて学んだこれらの国における公開買付の基本的な制度概要および留意点について可能な限りわかりやすく説明する。
1. 日本との大きな違い:英国型M&A制度のコンセプト(全株式の買付義務)導入
シンガポール及びマレーシアの公開買付制度を日本における公開買付制度と比較すると、最大の違いとしては、日本においては対象上場会社の株式の1/3超を取得する際には、公開買付を通じた取得が前提となる点である。一方で、シンガポールやマレーシアにおいてはいわゆる英国型M&A制度のコンセプトが導入されており、買付者が規定された持分割合(シンガポールは30%以上の持分、マレーシアは33%以上の持分)を保有することとなる持分を取得する際においては、当該買付者がかかる対象会社の全株式を買い付ける義務(他の株主がそれぞれの全持分を当該買付者が実施する公開買付に応募する前提)を履行する限り、先に相対取引等を通じて取得することが可能となる。ここでは細かい学問的な解説は控えるが、シンガポールの公開買付における少数株主保護の基本的な考えとして、同国においては企業の全株式の30%以上(マレーシアにおいては企業の全株式の33%以上)の持分を保有することはかかる企業の実質的な経営権を握ることができるという考えのもと、上場会社の全株式の30%以上の持分を保有することとなるような取引が行われると、(少数株主が)投資した時点と比較すると当該企業の株主構造(経営権の保有者)が大きく変更されたとみなされるため、そのタイミングにおいて買付者が、当該企業の少数株主に対して売却機会を提供することが求められる。ここで重要となるのは、シンガポールやマレーシアにおいては、規定された持分割合以上となる持分を保有することになった時点において「全株式買付義務」が発生するということである。つまり、例えばシンガポールを例にとると、上場会社の全株式の30%以上の持分を保有することになる取引(例:すでに10%を保有している株主が追加で25%を取得する場合)を行った場合、かかる取引が完了した時点で公開買付(このケースにおいては「強制的な買付(MGO)」、詳細は後述)を実施する必要があり、この公開買付に応募してくる株式はすべて買い付ける義務が発生する。
2. シンガポールの公開買制度
シンガポールの公開買付制度を少し詳しく説明する。マレーシアの公開買付制度はシンガポールの制度と類似するので、最後にマレーシアの公開買付制度の概要について簡単に説明する。
A) 概要
シンガポールの公開買付(General Offer)は同国の証券業委員会(SIC)が管轄するテイクオーバーコード(The Singapore Code on Take-Overs and Mergers)に基づいており、以下の2種類に分類される。