[企業変革手段としてのM&Aの新潮流 Season3]

2024年1月号 351号

(2023/12/11)

第4回 テレコム業界におけるインオーガニック戦略の実践を考える

荒木 毅(デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員/パートナー)
越智 隆之(同 ディレクター)
安田 隆敏(同 ディレクター)
神庭 豊(同 マネジャー)
  • A,B,EXコース
1. テレコム業界における現状

テレコム業界概況

 過去より参入障壁が高いとされてきたテレコム業界(通信インフラ関連事業)に対して、隣接業界に位置する事業者がテレコム業界への参入や事業展開を狙う動きが拡大している。AWS(Amazon Web Services)等のハイパースケーラーや、ジュピターテレコムに代表されるケーブルテレビ事業者等を含めた様々なプレイヤーがこの動きを加速させている様相がある。そのような事業環境において、通信キャリア(電気通信事業者)や通信機器ベンダーは従来の通信インフラ関連事業を主軸にしつつも、競争優位性を発揮するためにはどのような動きが求められるのか。事業の上流および下流を含めて、これまでテレコム業界の外ないしは際にいるプレイヤーと組み、親和性が高い領域に限ることなく事業開拓を進めていくことに1つの可能性がある。

近年の動向とインオーガニックの視点

 通信キャリアは、これまで高い参入障壁の内側にあったテレコム業界で獲得してきた資金力をもとに、決済事業など通信との親和性が高い領域に事業拡大してきた一方で、2020年以降に商用化された5G事業においてはハイパースケーラーの参入やケーブルテレビ事業者の事業拡大等、通信インフラ関連事業のシェアが奪われる危険にさらされている。例として、21年にAWSが発表したエンド・ツー・エンドのマネージドサービス「AWS Private 5G」等、通信キャリアや通信機器ベンダーを中抜きにしてエンタープライズが自社のICT高度化やその先にあるサービス向上を可能とするビジネスが登場している(注1)。従来から「Private LTE」(注2)といった近しいソリューションは存在していたが、AWSのようなクラウド事業者が参入したことにより、通信キャリアや通信機器ベンダーを中抜きにし、コスト効率的かつ短期間で企業のDXが進むことになったと考えられる。

 既存のテレコムプレイヤーがハイパースケーラーと対抗するためには、アプリケーションやデバイスの領域への進出・拡大が求められる。通信インフラだけでは戦うことが難しくとも、デバイスとアセットを増強し、通信の上流であるアプリケーションと下流であるデバイスを押さえることで事業ポートフォリオを拡大、エンド・ツー・エンドで競争力の維持・向上を狙う動きが重要である。

2. 事業環境を踏まえたインオーガニック戦略

基本的なアプローチ

 アプリケーションやデバイスの領域に進出・拡大するアプローチとしては、



■筆者プロフィール■

荒木 氏

荒木 毅(あらき・つよし)
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員/パートナー
モニター デロイト/M&A Strategy Analytics and M&A Division
国内およびクロスボーダーのM&Aコンサルティング業務に従事。TMT業界を中心にM&A戦略立案、ディール組成、実行支援等の多くの経験を有する。

越智氏

越智 隆之(おち・たかゆき)
デロイト トーマツ コンサルティング ディレクター TMT Division
大手通信キャリアの海外M&A部門を経て現職。電機メーカー、医療機器メーカー、デバイスメーカーを中心に新規授業戦略立案、組織・人事戦略、M&Aプロジェクト等に従事。特にクロスボーダー案件に強みを有する。

安田氏

安田 隆敏(やすだ・たかとし)
デロイト トーマツ コンサルティング ディレクター TMT Division
テクノロジー・メディア・通信業界を中心に、特にメディア企業に対する事業戦略、経営管理、組織構造改革、業務改革、システム構想といった幅広いコンサルティングプロジェクトに従事。

神庭氏

神庭 豊(かんば・ゆたか)
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー TMT Division
テクノロジー・メディア・通信業界を中心に、特にメディア業界に対する事業戦略立案、M&A、海外マーケティング体制構築、経営管理、システム構想等のコンサルティングプロジェクトの経験を有する。

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