[特集インタビュー]

2023年11月号 349号

(2023/09/29)

そーせい 小が大を買う積極果断なM&Aを実施

―― イドルシア買収により、製薬企業として機能を発揮

クリス・カーギル(そーせいグループ 代表取締役社長CEO)
  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2023年11月号 通巻349号(2023/10/16発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
クリス・カーギル

クリス・カーギル

KPMGのコーポレート・ファイナンス部門を経て、JPモルガンの投資銀行部門に8年間勤務し、英国のヘルスケア・セクターを担当。2017年9月、コーポレートコミュニケーション部長としてそーせいに参画。2018年11月、同社執行役副社長 CFOに就任。2022年3月CEOに就任。豪モナシュ大卒。オーストラリア出身。グローバルファイナンス分野で10年以上の経験を持つ。これまでのアドバイザリーの経験から、幅広い医療分野の知識、財務の優れた洞察力を有し、かつ市場に精通。

治療薬販売事業への大きな一歩

 東証プライム上場のバイオ創薬大手であるそーせいグループは7月20日、スイス証券取引所上場の製薬企業であるイドルシア・ファーマシューティカルズ(以下、イドルシア)の日本や韓国における事業(APAC事業)を買収した。そーせいとして、過去最大のM&A(合併・買収)になる。買収総額は約650億円で、手持ちの現金250億円を活用し、残りの400億円はみずほ銀行からの長期借入金を使う。

 そーせいの2022年12月期の売上高は155億円、コア営業利益は同58億円(図表1)。総資産は同994億円であり、企業規模対比で考えれば、「小が大」を買う、戦略的な買収だと言える。

 そーせいは今回の買収により、創薬事業だけでなく治療薬の販売事業へも参入することになった。イドルシアは2017年に設立された製薬企業である。日本では22年、くも膜下出血の手術後の脳血管痙攣を防ぐ薬である「ピヴラッツ」が主力製品だ。
(図表1)そーせいの業績推移
そーせいの業績推移

 早期の収益化が期待できる点が今回の買収の大きなポイントだ。そーせいは今回の買収により、2022年4月に上市した「ピヴラッツ」と24年上市の「QUVIVIQ」の製品を獲得する。そのほか、イドルシアのパイプラインの7品目の治療薬候補について、日本での開発・販売が可能なオプション権等を取得した。欧米で承認済みの不眠症治療薬「QUVIVIQ」は国内での臨床試験を終了している。

 そーせいはこれまで研究開発の分野に特化していたが、バイオ創薬は収益化までの時間が長いことから、収益の変動が大きいという問題があった。今回のイドルシア買収により、すでに販売されている製品や承認申請が間近な製品の権利も取得したため、過去からの課題を解消できる可能性がある。

 過去を振り返ると、そーせいはイドルシア買収以前にも、大規模なM&Aを2度実施している(図表2)。

 直近は2015年に、イギリスのバイオスタートアップであるヘプタレス・セラピューティクスを総額4億米ドル(当時の為替レートで約476億円)で買収した。これは、新薬候補の権利を他の製薬会社に提供することで、マイルストンやロイヤルティー収入を得ることを主目的としたM&Aだった。

 そーせいの2022年12月期の連結純利益は、前期比62%減の3億8200万円だった。今回、買収した事業単体での23年12月期の売上高とEBIT(利払い・税引き前利益)の見通しは、それぞれ128億円と28億円で、23年7月から連結対象となっている。

 そーせいはこれまでも、「小が大を買う」積極果断なM&Aを実施してきた。そーせいのクリス・カーギル社長は7月20日に開催した記者会見で、「シナジーにより、長期的に業界トップクラスの利益率を達成できると考えている」「今後は北米進出を狙う」と述べるなど、今後のM&Aにも注力していく方針を示した。そーせいのM&Aの考え方について話を聞いた。

(図表2)そーせいグループの沿革
そーせいグループの沿革
―― 創業以来のそーせいのこれまでの歩みを教えてください。現在、どのような会社に成長していますか。

「そーせいは1990年、元ジェネンテックの日本法人社長の田村眞一氏により33年前に設立されたバイオ創薬企業です。設立当初は、欧米のバイオテクノロジーを日本に導入するという目的をもったスタートアップでした。シリーズA、シリーズBの資金調達を成功させ、スタートアップとしての評価を確立しました。

 2005年には、東証マザーズへの上場という大きなマイルストンを達成し、同年、買収総額216億円でアラキス社のM&Aを実施しました。これにより、当社は自社での薬剤開発の道を歩むようになりました。 アキラスの買収により、独自の創薬能力を持つことができ、研究開発を重視したバイオファーマへと進化しました。

 その後、2015年に480億円でイギリスの創薬ベンチャーヘプタレス社を買収しました。2005年から2012年の間、そーせいはさらなる拡大を遂げ、ヘプタレスの買収という新しいステージに進出したのです。2015年のヘプタレスの買収以降の8年間で創薬の能力への大きな投資を続け、日本を代表するバイオテック企業としての地位を築いてきました。現在は、40のプログラムを有する初期開発段階のパイプラインを構築しており、その半数以上が大手製薬会社や他のバイオテックとの協力の下で進行中です。

 そして今回、2023年7月20日に、イドルシアを買収しました。これは、当社の「フルスコープのバイオテックになる」というビジョンの実現に向けた最終段階となります。これまで当社は臨床開発を中心に活動してきましたが、イドルシアの買収により、後期の研究開発から販売までの一連のプロセスを手がけることができるようになりました(図表3)。イドルシアの買収は、この30年のマスタープランの締めくくりとなり、当社は創薬から完成薬までを患者に届けることができる企業へと進歩してきたことになります。当社の進化は、初めのスタートアップの段階から、慎重かつ戦略的なM&Aと切り離せません。現在、全ての機能を持ったバイオファーマとしての地位を確立しました。

 現在グループは350人超の体制です。今後はグローバルな展開も視野に入れ、まずは日本、アジアで足場を固め、将来的には北米進出も目指しています」

(図表3)そーせいグループの全体像(350人超の体制を整備)
 
そーせいグループ
東証プライム上場 (4565-JP)
従業員数| 46人
 
へプタレス社
ケンブリッジ| 177人
研究・創薬
  • StaR®-SBDD プラットフォーム
  • 創薬
  • トランスレーショナルメディシン
  • 早期臨床開発
  • 事業開発
株式会社そーせい
東京| 12人
IPJ
東京| 130人
IPK
韓国| 5人
医薬品開発
  • 臨床開発
  • 薬事
  • 製造販売承認取得
  • 販売(直接およびパートナー経由)
医薬品開発と商業化
  • 臨床開発
  • 薬事
  • 製造販売承認取得
  • 販売(直接およびパートナー経由)
日本事業は取引完了後12ヵ月以内に統合

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