[M&Aフォーラム賞]

2013年11月号 229号

(2013/10/15)

第7回 M&Aフォーラム賞が決定――M&Aフォーラム賞正賞『RECOF賞』などに4作品を選定

  竹田年朗著『クロスボーダーM&Aの組織・人事マネジメント』は、M&A実務の分野における力作でした。読みやすくしかもM&A後の経営統合(PMI)プロセスにおける実務上の問題をきめ細かく、かつ体系的に叙述しています。これまでのM&A実務上の関心は、主として企業買収に当たってどのようなことを注意すべきかという点にありましたが、本著作は、買収後の組織をどのようにマネジメントしていったらよいかという、日本企業が現在直面している問題を取り上げています。組織・人事マネジメントに苦闘している企業の経営者の指針となる書といえます。

  矢部謙介著『日本における企業再編の価値向上効果―完全子会社化・事業譲渡・資本参加の実証分析』は、企業再編の価値向上を株主価値向上と財務業績向上に分けた上で、株式の累積超過収益率と超過ROA(総資産営業利益率)の決定要因を中心に、完全子会社化、事業譲渡、資本参加の3つのケースについて、同一の手法を用いて丹念な実証分析を行っています。そして、完全子会社化ケースでは、株主価値向上について、買収プレミアムには、経営統合効果に関する内部情報が含まれているとする『内部情報反映仮説』、および財務業績向上については、買収会社の影響力が大きい場合には買収プレミアムが低く設定され、経営改善が進みやすいとする『交渉力反映仮説』を支持する結果を得ています。

  太田洋編著『M&A・企業組織再編のスキームと税務~M&Aを巡る戦略的税務プランニングの最先端~』は、文字通り税務プランニングの最先端の問題を展望し、かつ日本における税務ルールの特徴と残された課題や不十分な点をシャープに叙述した著作です。日本ではまだ実例が少ないけれども、今後大きな課題になると予想される問題に正面から取り組んでいます。とりわけ、第8章の『スピン・オフ、スプリット・オフ及びスプリット・アップと課税』や第9章の『海外への本社移転と課税』は、アメリカの税務の実情を中心に文字通り最先端の問題を扱っています。

  また、日本の法人税法については、『現物配当による資産の増加益への課税』問題に関する通達の扱いを巡る問題や法人税法132条2(企業再編にともなう租税回避行為の一般的な防止規定)の適用要件の条文に関する解釈などについて踏み込んだ専門的な叙述がなされています。複数の執筆者によることもあり、統合性、難易度のばらつきが見られますが、全体として優れた税務に関する先端の書といえます。

  いずれも甲乙付け難い力作でしたが、『友好的買収の場面における取締役に対する規律』が、その完成度の高さが評価のポイントとなり、審査委員の満場一致でM&Aフォーラム賞の正賞とし、『クロスボーダーM&Aの組織・人事マネジメント』、『日本における企業再編の価値向上効果―完全子会社化・事業譲渡・資本参加の実証分析』、『M&A・企業組織再編のスキームと税務~M&Aを巡る戦略的税務プランニングの最先端~』の3作品に奨励賞を授与することに決定致しました。

  次に、M&Aフォーラム賞の前身であるレコフ賞を受け継ぎ、学生論文を対象として表彰を行ってきましたM&A賞選考委員会特別賞については、応募2作品を対象に受賞の可否を検討しました。しかしながら、今回の応募作品はいずれも事象の整理・分類にとどまっており、授賞するには更に踏み込んだ分析が必要であるとの意見が委員より出され、全会一致で、今回は該当作品なしとすることを決定しました」

落合氏  また落合誠一・M&Aフォーラム会長(中央大学法科大学院教授、東京大学名誉教授)は、「私共の行っている活動は、2つの柱から成り立っています。その1つの柱は、M&A人材育成のための研修活動です。具体的には、『M&A人材育成塾』です。講師にはM&A業界の第一人者の方々にお願いしており、この育成塾はご好評を頂いております。具体的には、2006年から今日までに開催された講座数は24講座、ご活用された企業数は240社を超え、受講者は、延べ750人余りのご参加を頂いています。

  もう1つの柱が、今回で7回目を迎えたM&Aフォーラム賞という顕彰制度です。わが国のM&Aの普及啓発に資する優れた書籍、研究論文に対して表彰する制度であり、レコフさんの全面的なご支援を得て毎年実施しておりますが、回を追うごとにM&Aに関連する法律、経済問題について専門的に深く分析、提言されているものが多いとの印象を受けております。

  M&Aを取り巻く環境も徐々に好転する気配も見えております。本フォーラムは今後とも着実に実績を積み上げたいと思っております。皆様には、本フォーラムの趣旨をご理解賜り、より一層のご支援の程お願い致します」と述べた。

【受賞者の言葉】

■白井 正和(東北大学大学院 法学研究科 准教授)
白井 正和氏   「このたびはM&Aフォーラム賞正賞という栄えある賞を頂き、大変光栄に存じます。選考委員の先生方ならびに関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。本書のはしがきにも書かせて頂きましたように、本書は支配・従属関係のない当事者間の友好的買収の場面を対象に、買収対象会社の取締役に対するあるべき規律づけの仕組みについて検討したものです。諸外国の例と比較して、わが国では友好的買収の場面一般における規律づけの仕組みは十分といえるのだろうかという疑問に端を発し、約1年間をかけて調査・執筆した上で、2009年11月に東京大学大学院法学政治学研究科に提出した同名の博士論文を基礎とします。積み残した課題も少なくありませんが、友好的買収が増加する傾向にある今日において、本書が、友好的買収の場面における買収対象会社の株主と取締役との間の利害状況に関する議論や、買収対象会社の取締役に対する規律づけのあり方に関する議論の進展に、少しでも貢献することができれば幸いに存じます。今回の受賞を励みに、今後もM&A分野における調査・研究活動により一層力を入れて参りたいと思っております」

■竹田 年朗(マーサー ジャパン株式会社 グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル)
竹田 年朗氏   「このたびは第7回M&Aフォーラム賞奨励賞を頂戴し、大変にありがたく、また光栄なことと存じます。巻頭の謝辞でも触れましたとおり、本書は多くの方々のお力に支えられております。改めて、皆様に厚く御礼を申し上げます。
  筆者は、平素M&Aの実務者として顧客企業を支援しております。クロスボーダーM&Aの組織・人事分野は個別性が強く、また考察すべき範囲も多岐にわたり、なかなか一口に語ることができない面があります。しかしながら、いつまでも『一口に語れない』状態にしておいたのでは、日本にとって重要なこの分野がなかなか進歩しないのではないかと思い、己の未熟は棚に上げ、本書を出すことを考えました。
  今回の受賞を大いなる励みとし、今後ともさらに精進を重ね、微力ながらもクロスボーダーM&Aを通じてお役にたちたいと考えております」

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