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[M&A戦略と法務]

2018年4月号 282号

(2018/03/15)

債権法改正がM&A取引に与える影響

 髙山 崇彦(TMI総合法律事務所 弁護士)

1 はじめに

  民法の債権分野に関する規定について、1896年の民法制定以来の抜本的な見直しが行われ、「120年ぶりの大改正」といわれる「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」(以下、これによる改正後の民法を「改正民法」といい、当該改正前の民法を「現行民法」という)が2017年5月26日に成立した。

  改正民法は、一部の規定を除いて、2020年4月1日から施行される(注1)。民事基本法の、しかも契約に関する債権部分の改正であることから、その内容は多岐にわたっており、企業法務の観点からも、改正民法の内容を踏まえた定型約款や契約書の見直しが急務となっている。M&A取引についても、幾つかの点において、改正民法の内容を踏まえた対応を改めて検討する必要が生じる。

  そこで、本稿では、改正民法の立案の検討過程における法制審議会での審議の内容等を踏まえて、改正民法の施行がM&A取引に与える影響について論じることとしたい。なお、紙幅の関係上、本稿では、M&A取引との関係で特に注目度が高いと考えられる改正点を取り上げているにとどめている。したがって、本稿で触れている点以外にも、M&A取引に影響を与える可能性があることにはご留意いただきたい。

2 詐害行為

(1)改正の概要


  改正民法は、詐害行為取消権について、判例や破産法の規律を踏まえて、①相当価格処分行為や偏頗行為・非義務行為による詐害行為の要件を類型的に明文化し(改正民法424条の2、424条の3)、②受益者又は転得者が逸失財産を返還できない場合の価額償還請求権の規律や取消しの範囲、取消債権者への金銭・動産の直接の引渡しに関する規律を明文化するほか(改正民法424条の6、424条の8、424条の9)、判例を変更して、③詐害行為取消権を転得者に行使する場合の要件として受益者及び全ての転得者の悪意を必要とし(改正民法424条の5)、④取消しの効果が債務者及び全ての取消債権者に及ぶようにするなど(改正民法425条)、現行民法からの変更点は多岐にわたっている。

  以下では、これらの改正点のうち,①詐害行為の要件が類型ごとに明文化されたことに焦点を当て、M&A取引への影響、とりわけ詐害的会社分割がされた場合の債権者保護に与える影響について考察する。

(2)M&A取引への影響

  詐害的会社分割が行われた場合において、自らの債権が承継会社又は新設会社(以下「承継会社等」という)に承継されない債権者(以下「残存債権者」という)は債権者異議手続の保護対象とならないが(会社法789条1項2号、810条1項2号)(注2)、判例上、残存債権者は、詐害行為取消権の行使により、債権の保全に必要な限度で会社分割による権利の承継の効力を否定することが認められている(注3)。また、残存債権者の保護のため、2014年の会社法改正においては、詐害的会社分割が行われた場合に、残存債権者は,承継会社等に対して,承継財産の範囲で直接に債務の履行を請求する権利(以下「履行請求権」という)を有するとされた(会社法759条4項、764条4項)(注4)。

  詐害行為取消権が総債権者のために債務者の責任財産を保全する制度であるのに対して、履行請求権は承継会社等に直接債務の履行を求めることを認める制度であり、制度趣旨を異にする。したがって、両権利は併存し,いずれについても行使することができると解されている(注5、6)。なお、民法改正に伴い、詐害行為取消権の行使期間の変更(改正民法426条)等の一部の規律については,これらに合わせて履行請求権の規定内容も改正されているが(注7)、冒頭で述べた詐害行為の要件の類型ごとの明文化等については、前述した制度趣旨の相違等を理由として、これに伴う履行請求権に関する改正は見送られた(注8)。

  以上のとおり、詐害行為取消権と履行請求権とは併存するが、履行請求権はあくまで承継会社等に対して直接に債務の履行を請求するものであるから、承継会社等が既に承継財産を転得者に譲り渡しているような場合には、履行請求権の行使は、残存債権者が自らの債権を保全する上で選択肢となり得ない。また、分割会社に法的倒産手続が開始された場合には、履行請求権の行使は認められない(会社法759条7項、764条5項)。したがって、これらの場合には、残存債権者による債権の保全は、専ら詐害行為取消権の行使により図られることになる。

  ところで、改正民法においては、

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