[特集インタビュー]

2024年2月号 352号

(2024/01/15)

伊藤忠商事のM&A戦略――住生活カンパニーの投資事例研究 【第一部】伊藤忠『商社型PE』のアプローチで進めるM&A

真木 正寿(伊藤忠商事 住生活カンパニー プレジデント)
  • A,B,EXコース
伊藤忠商事の業績が好調だ。同社は2023年11月6日に発表した2024年3月期の中間決算で、通期の業績見通しを従来予想(前年同期比3%減の7800億円)から8000億円に上方修正した。好業績の牽引役となっているのが、連結子会社の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)に対するTOB(公開買付け)の実施などに代表される、非資源事業の強化のための取り組みだ。
伊藤忠商事にはM&Aに特化した専担部門はないものの、各営業カンパニーが戦略・市場ニーズに基づいて、マーケットインの発想でM&Aに取り組んでいる。その具体的な一端として、紙・パルプ、物資・資材、物流や不動産事業などを手掛ける「住生活カンパニー」のM&A戦略を取り上げる。住生活カンパニーは特に北米建材事業でのM&Aを積極的に推進しており、2023年3月期の連結純利益は951億円、24年3月期の通期でも820億円を見通す。
住生活カンパニー所属の社員数は365人(うち97人が海外駐在員)で、カンパニー所属のかなりの割合の総合職社員がM&A関連スキルを兼ね備えている(2023年3月31日時点、同社の従業員数は4112人)。特徴としては、「投資の4つの教訓」といった全社的な考え方、「商社型PE」といった独自の事業方針が挙げられる。
本パートでは、住生活カンパニーの真木正寿プレジデントにM&Aに関する考え方等について尋ねた。(編集部)
M&A戦略についての4つの教訓

―― 伊藤忠商事のM&A戦略の規律、考え方を教えてください。

真木氏

真木 正寿(まき・まさとし)

1987年同志社大学商学部卒、伊藤忠商事入社。2009年建設第二部長、2016年建設・物流部門長、2019年執行役員就任、2022年4月より住生活カンパニー プレジデント。

「伊藤忠商事として、高値掴みで行う案件は将来的に問題を引き起こす可能性があるという認識を強く持っており、それは岡藤正広会長CEOや石井敬太社長COOを筆頭とするトップマネジメントからも日々発信されています。そのため、『投資をする本質的な目的は何か』という根本的なことについて深く議論し、M&Aを慎重に進めています。例えば、メーカーならば『M&Aによって自社ビジネスに他社の機能を追加すると相乗効果が生まれる』という考え方が成り立ち得ますが、総合商社の場合、それが必ずしもうまくいくわけではありません。当社では自社の事業と関連性のある領域でのM&Aによって、ビジネスがどのように成長するかを考えます。会社として、『投資の4つの教訓』や『商社型PE』という考え方を大事にしています。

 事業承継においても、特に日本では創業者や上場会社の大株主などが自分たちのビジネスをどうバトンタッチするかという大きな課題に直面しています。これらの承継では単に高い値段で売るだけではなく、信頼できる次の担い手に適切に引き継ぐことが重要視されており、そのサポートを真摯に行うことも大事だと考えています」

―― 「投資の4つの教訓」とは何でしょうか。

「①高値掴み、②取込利益狙い、③パートナーへの依存・過信、④知見のない分野、この4つを避けることです(図表1)。

 1つ目の「高値掴みを避ける」というのは、将来の減損リスク等を考慮し、投資額を抑制することで、適正な価格での買収に努めます。2つ目の「取込利益狙いをしない」は長期的な視点を持ち、足元の利益貢献のみを目的とした投資は行わないということです。3つ目は「パートナーへの依存・過信を避ける」で、特定のパートナーや顧客に過度に依存するリスクのある案件には関与しません。4つ目は「知見のない分野」で、我々が全く知見のない分野、つまり飛び地のような案件には手を出さないということです。これらの原則に基づき、全社の投資戦略を進めています」


この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

関連記事

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング