2023年8月に経済産業省が公表した『
企業買収の行動指針』を契機として、昨年後半から
同意なき買収が活発化する兆しを見せている。こうした動きを先取りした事案の1つといえるのが、2020年にニトリホールディングス(以下、ニトリ)が実施した対抗
TOBだろう。
DCMホールディングスが島忠への友好的TOBを開始した後、ニトリは島忠の同意がないまま対抗TOBの実施を決断。最終的には島忠の賛同を得た形で対抗TOBが成立し、
完全子会社化にこぎつけた。
どのような経緯で対抗TOBを決断し、成功させたのか。ニトリにとって初めての大型M&Aともいえる本事案において、M&Aの実務担当者はどう動いたのか。
実務責任者として案件を取りまとめた松島俊直氏(執行役員・事業開発室 室長)、鏡味一郎氏(事業開発室シニアリーダー)、グエン トゥイズオン氏(事業開発室担当)と、法務面から対抗TOBをサポートした青谷賢一郎氏(上級執行役員・法務室 室長)にTOB成功の理由を振り返ってもらった。
対抗TOBに至る背景
―― DCMホールディングスが島忠に対する友好的TOBを実施している中、ニトリが対抗TOBの実施予定を公表しました。どのような経緯があったのでしょうか。
松島 「ニトリグループは、会長の似鳥昭雄が提唱している『住まいの豊かさを世界の人々に提供する。』というロマン(志)を企業行動の原点としています。そしてこのロマンを実現するための中長期ビジョンとして、『2032年、4000店舗、売上高3兆円』の達成を掲げています。
このビジョンの実現に向けて事業の拡大を検討していく中、ホームセンター事業への参入は有力な選択肢の1つだと位置付けられていました。実際、当社が島忠に対するTOBを表明するよりも前に、何度か証券会社経由で資本業務提携や経営統合に向けたアプローチをしたこともあったのですが、そのときは『自主経営を貫いていく』という返事をいただきましたので、そのように理解していました。
2020年9月18日、DCMホールディングスがTOBを行い、島忠を傘下に収める方向とのニュースがNHKで報じられました。島忠が自主経営路線を転換し、他社と一体となって事業展開をしていく意向を持っているのであれば、当社としてもアプローチしたいと、急遽対応の検討を開始しました」