[Webマール]

(2024/05/22)

カーライルが100億円を投資、Spiber(スパイバー)の事業戦略

――投資ファンドの知見を活用、IPOも近く実現へ

大島 圭裕(Spiber 執行役)
  • A,B,C,EXコース
大島氏
Spiber(スパイバー、関山和秀取締役兼代表執行役、本社・山形県鶴岡市)は2007年設立の慶應義塾大学発のスタートアップだ。累積調達金額は1000億円を超え、日本で数少ないユニコーンとして知られている。クモの糸の強靱さや伸縮性、カシミアやウールなどの上質な肌触りなどを実現した革新的な人工タンパク質素材「Brewed Protein(ブリュード・プロテイン)」の開発・生産に取り組んでいる。

スパイバーは研究開発を重ね、植物由来の糖を原料とした微生物発酵によってブリュード・プロテインを量産する技術を確立した。主原料に石油資源や動物資源を使用しない同素材は、生分解性があり、またカシミア繊維などと比べ、製造工程においても温室効果ガス排出量と水の使用量を大幅に削減できるという特徴を持っている。

スパイバーの繊維は、既にゴールドウインが展開する「ザ・ノース・フェイス」など、複数のアパレルブランドに採用されている。2022年より稼働を始めたタイ工場での生産拡大により、生産コストの削減と供給量の増加が見込まれ、より多くのアパレル企業が今後スパイバーの素材を活用した製品を採用することが期待されている。

また、アパレル産業だけでなく、自動車産業においてもスパイバーの素材の採用を見据えた研究開発が進められている。短中期的には自動車の内装材やシートカバーとしての普及、また長期的には複合材として自動車の車体に素材が応用できる可能性があり、鉄の使用量を減らすことによって車両の軽量化および燃費向上を実現することにも期待ができるという。こうした技術的な将来性を見込んで、兼松、小松マテーレ、関西ペイントなどの有力事業会社がこのところ続々とスパイバーとの協業を開始した。

スパイバーは山形県鶴岡市にある工場に加え、2021年にはタイにも生産拠点を設けることに成功した。原料の調達コストが低く、安価で持続可能な設備を有するタイ工場は現在年間500トンの生産能力を持つ。さらに、今後は米国にも生産拠点を設ける予定であり、グローバルな供給体制の確立を目指している。米国生産拠点への投資に当たっては2020年12月と2021年9月の計2回にわたって、三菱UFJモルガン・スタンレー証券をアレンジャーとした「事業価値証券化(Value Securitization)」と呼ばれる資金調達手法により、総額400億円を調達している。

事業会社の経営支援を得意とする投資ファンドの支援も得ている。2021年9月、米投資ファンドのカーライルはスパイバーに対して100億円の投資を実施。カーライルは生産・販売・財務の様々な面においてスパイバーを支援している。週次の経営会議で経営課題を共有しつつ伴走支援をしており、その結果、スパイバーの経営アクションが明確になり、マーケティング戦略の具体化・体制強化が進捗している模様だ。

他方で、量産化と商業化には、多大な投資と時間を要している。公告によれば、スパイバーの2023年12月期の決算は約35億円の最終赤字だった(2024年4月1日発表)。生産の拡大によりトップラインは伸びているものの、販路のさらなる拡大、生産コスト削減等による早期の黒字化が課題となっている。

スパイバーは近くIPOを目指しており、さらなる資金調達と企業価値の向上を図る考えだ。経営の現状、投資ファンドから受けている経営支援や今後の事業戦略について、スパイバー執行役の大島圭裕氏に考え方を聞いた。
世界唯一のタンパク質素材の製造会社

―― スパイバーはどのような事業を行っている会社でしょうか。

「社名から、いまだにクモの糸をつくっている会社に思われがちですが、



■大島 圭裕(おおしま・よしひろ)
2007年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2007年にドイツ証券投資銀行本部へ入社。主にクロス・ボーダーM&A案件のアドバイザリー業務に従事。2018年にSpiberに入社。2018年9月よりシンプロジェン取締役に就任。現在はSpiberコーポレート・ファイナンス室長および担当執行役、Spiber Americaの取締役を務める。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、Cコース会員、EXコース会員限定です

*Cコース会員の方は、最新号から過去3号分の記事をご覧いただけます

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

関連記事

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング