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[【投資ファンド】PEファンドの役割と企業価値向上の実際(カーライル・ジャパン)]

(2017/02/08)

【第1回】 10年後を見据えて ~プライベートエクイティー(PE)ファンドの効能~

 大塚 博行(カーライル・ジャパン・エルエルシー マネージングディレクター)
 斎藤 玄太(カーライル・ジャパン・エルエルシー ディレクター)

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はじめに


 「ハゲタカファンド」など、日本においてはネガティブなイメージを持つ人も多い。ファンドとは一体何なのだろうか?一般的にファンドとは、複数の投資家から集めた資金を用いて投資を行いそのリターンを分配する主体のことだが、一口にファンドと言ってもその中には多くのカテゴリーが存在する。投資対象としても、企業(株式)に投資するファンドから、不動産に投資するファンド、商品に投資するファンドなどその種類は多いが、企業(株式)に投資するファンドを分類すると概略(図1)のようになる。

図1:企業(株式)投資を行うファンドの分類
 

 


 例えば、ベンチャーファンドは、いわゆるベンチャー企業に対してマイノリティ(少数持分)投資を行うファンドであり、ディストレストファンドは、破綻懸念ないし破綻企業の経営権を取得して事業再生を行うことを目指すファンドである。一方、プライベートエクイティー(PE)ファンドは、成長期から成熟期の企業に対して投資を行うことが多く、投資先の企業経営に深くコミットし、経営陣の最大サポーターとして事業展開を支援して会社の成長を実現し、その結果として企業価値の増大を目指す存在である。

 近年、経営改革が求められている日本企業への投資において、PEファンドはその存在感を高めている。世界最大手のPEファンドの一つであるカーライル・グループは、日本におけるPE投資の草分け的存在として、これまでに23社の日本企業に投資してきた。

 PEファンドの役割とは何で、どのようにその役割を果たしていくのか。その結果、社会・経済・企業にどのような影響を与えているのか。まだ実態が十分に理解されていない部分もあるPEファンドの投資後の世界について、カーライル・グループが世界及び日本で投資活動を通じて経験してきたことを数回の連載の中で解説していきたい。

企業が次なる付加価値を求めるとき

 そもそもPEファンドがどのような投資先に対しても付加価値が提供でき、企業価値を増大できるということは言い過ぎであると感じる。その付加価値が発揮出来るかは、対象に成り得る会社がどのような成長ステージにあり、その経営者が何を目標に会社を経営・運営しているかによることが多い。例えば、新薬の開発途上のバイオベンチャー企業であれば、そのような企業への投資に特化したベンチャーファンドの方が企業価値向上のための引き出しをより多く持っている。また、より良い会社(この定義は後述)になろうとの意思を持たない会社経営者にとってはPEファンドとの協働は起こることもないし、まったく付加価値を生まない。

 経営者にとってあるべき究極の経営目標は、「会社が永続出来ること」であるとよく議論することがある。今から30年前を思い出して当時隆々としていた会社でも、今は見る影もない会社は結構多い。会社が永続性を構築するためには、同業他社との比較において、誰よりも高い売上成長率を達成出来ることが重要で、また誰よりも高い利益率を達成できることも重要である。永続的に利益率を上げ続けることには限界があり、企業価値の向上を継続するためには売上成長が必要となる局面もある。一方、利益率へのこだわりが重要になるタイミングもある。何故かといえば、利益率は自らが顧客に渡す「付加価値」の裏返しと考えるからである。つまり利益率が高くない会社は、顧客に対して「付加価値」を十分に提供できていない会社と類義語となっていると考えるからである。

 未来永劫の安定成長を達成することが困難であるように、常に会社永続性を盤石なものにすることも難しい。会社はその折々に次なる10年を見据えて、その会社永続性を構築するために、誰よりも高い売上成長率と利益率の構築に向けた戦略やアクションを考えるタイミングが生じる。経営者が、会社の次なる10年を見据えて動くときに、PEファンドとの協働がより付加価値を生む機会となる。

永続性のトライアングル

 会社が「永続性の構築」を目指すときに考えねばならないトライアングルの構成要素があると考える。図2に示した通り、①今後の10年を支えるために必要な「あるべき事業戦略」の構築、②それを実行できる「経営人材」の獲得・活用と「組織インフラ」の構築、そして③そこに貢献できる、あるいは許容できる資本構成の構築、があると考える。逆にいうと、このトライングルの構成要素の一部あるいは全部が満たされていないと、高い成長率や利益率の実現への実行アクションが取れない会社となるケースが多く見られるといってもよい。自前による本トライングアルの成立が可能か、もし可能でないのであれば、抜本的な解決やその構築サポートが出来る資本家としてのPEファンドとの協働を行うという思考が成立する。PEファンドはこの構成要素のすべての項目で力を発揮できることが多い。

図2:会社永続に必要なトライアングル

 

 

 


 このトライアングルが相応に成立していれば、会社は永続性の目標に向かって、適正な売上成長率や利益率を目指すことが出来ると思われる。10年後を見据えた今後2-3年の戦略や実行プランがなければ「What」がないことになるし、それを実行する経営陣、人材、組織が盤石でなければ「How」が成立しないので結果として絵に描いた餅でおわる。また、その戦略やアクションプランの実行タイミングや実行後の数値目標につき、その時点における株主と目線が合わなければ、その戦略は許容されないこととなり、結局それは実行できないあるいは実行途中で頓挫することになる。

①10年ロードマップと2-3年の戦略とアクションプランの構築

 会社が永続性を構築するためには常に10年後の「あるべき姿」をイメージするべきである。その「あるべき姿」に少しでも近づくために、このロードマップの中で足許2-3年の短期・中期的な戦略やアクションプランは何かを考える必要がある。この時に、会社経営陣だけでこの議論を行うと、よく自分達の業界位置からの景色だけを見据えて戦略を考え始めることが多い。本来は10年を見据えるということは、自分たちの事業と連動する川上の調達先から川下の最終業界に至るまでの「地殻変動」(例えば、足許では自動車産業において、完成車メーカーが、「モノづくり」主体から「車を媒体とするサービス」主体への発想転換を余儀なくされるような業界構造の大きな変革が起きている)を踏まえたものでないと、真の永続性に寄与するロードマップとはなりえない。幸いにグローバルに活躍するPEファンドは、多くの投資経験や投資先企業のネットワークを通じて、様々な業界のバリューチェーンについて全世界の市場・地域でインテリジェンス(生きる情報)を得ている。そのため、これらのインテリジェンスに基づきPEファンドが行うトップダウン思考(マクロ業界や対象会社の最終業界から川上を見据えた議論)と対象会社経営陣が行うボトムアップ思考(自分たちの業界から川下を見据えた議論)とを組み合わせることで、より客観的で適切な10年ロードマップを描くことができるようになる。このようにして作り込む大局観を持ったロードマップからより細部の戦略やそのアクションプランに落とし込んでいくことも重要であり、個別のアクションプランに対して、誰がいつ何をするのかが明確になっていれば、これらのアクションリストが「To Doリスト」に何年たっても残っているようなことはなくなり、実行力となり、結果としてPDCAサイクルのもとで効果的な経営モニタリングや微修正・調整を行うことができるようになる。

②組織と経営体制の強化

 いくら優れた戦略があっても、結局は実行するのはその会社にいる従業員(ヒト)であり会社を構成する組織である。つまりは、上記①で述べた戦略とそのアクションプランがはっきりしたうえで、その実行に即した組織や経営体制を作ることが大事である。人材と組織が機能していない会社では、いくら優れたかつ妥当性や蓋然性を備えた戦略があっても結果は生まれないと考える。PEファンドは客観的な立場から、その会社のロードマップ実行に即した組織運営体制の立案やそれを担う人材の定義設定、外部人材獲得による補強、働く人のモチベーション作り、などを通じて変化を作ることを促す。PEファンドは不必要な時間をかけずに現経営陣との共同作業でこれらを作り上げることに長けており、往々にして経営陣からPEファンドの付加価値を大きく感じてもらい評価されるイニシアティブになることが多い。具体的にPEファンドが提言することが多い組織・経営体制強化の内容としては、海外子会社・海外事業・海外経営陣を適切にマネージするためのグローバル経営体制の構築、会議体運営・レポーティングの最適化(見える化)、CFO(Chief Financial Officer)やCSO(Chief Strategic Officer)やマーケティング責任者等の幹部人材の採用などがある。幹部人材の採用において外部人材にとっても、PEファンドの投資先であることがプロフェッショナル経営者を目指すという意味で魅力的なキャリアプランとなり、ストックオプションを含む精緻なインセンティブも提供することで、有能な人材を引き付けることが可能となる。グローバルなPEファンドと協働する場合は、特に海外において通常の日本の中堅企業では到底採用できないレベルの人材の採用が可能となることが多い。
 

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