[M&A戦略と法務]

2025年8月号 370号

(2025/07/09)

中小M&Aガイドライン第3版と実務動向

篠原 一生(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
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1 はじめに

 中小企業庁は2024年8月30日に、「中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」(以下「ガイドライン」または「改訂版ガイドライン」という)を公表した。第2版の改訂から約1年という比較的短期間での改訂となったが、昨今、中小企業の売主が対象会社の債務について行っている経営者保証の処理が適切に行われないことに起因するトラブルなども起きており、仲介者及びFA(フィナンシャル・アドバイザー)に対して更なる対応を求める形で改訂が実施されている。M&A仲介業務の実施に際しては、基本的に金融商品取引法等による業規制は受けないものと解されており、ガイドラインの遵守も法律上の義務とはされていないが、ガイドラインの遵守は中小企業庁のM&A支援機関登録制度における登録のための要件とされており、登録により同機関からの補助金を受けることができる点で、重要性は高いといえよう。

 改訂版ガイドラインにおける主要な改訂事項は、
① 仲介者・FAの手数料・提供業務に関する事項
② 広告・営業の禁止事項の明記
③ 利益相反に係る禁止事項の具体化
④ ネームクリア・テール条項に関する規律
⑤ 最終契約後の当事者間のリスク事項について
⑥ 譲り渡し側の経営者保証の扱いについて
⑦ 不適切な事業者の排除について
であり、その内容については、田尻雄裕ほか「中小M&Aガイドライン(第3版)改訂ポイントの解説」(MARR Online、2025年1月23日)などでも解説がされている。本稿では、これらの改訂内容を踏まえ、中小M&A実務における実際の対応や問題となり得る点について、実務的な検討を加えることとする。なお、本稿の意見に関する部分は、本稿執筆時における筆者の個人的見解にすぎず、所属する組織を代表するものではないことをはじめに付言させていただく。


■筆者プロフィール■

篠原 一生(しのはら・いっせい)

篠原 一生(しのはら・いっせい)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。M&A・コーポレート、不祥事対応・危機管理、労務、システム開発、決済システム等のIT関連業務、消費者関連法に関する業務に従事。M&Aでは、上場会社・非上場会社(自動車、製薬、調剤薬局、物流、建設、通販等)、PEファンド、政府系ファンド等を代理して、各種案件に従事。また、不祥事対応・危機管理案件では、主にガバナンスが問題となる案件や、学校法人における不祥事対応に従事。2018年~2019年慶應義塾大学総合政策学部非常勤講師(行政法・社会保障関連分野)、2020年南カリフォルニア大学ロースクール修了(テクノロジー&起業関係法 Certificate)、同年TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング株式会社執行役員就任(フォレンジック、サイバー保険)。

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