[寄稿]

2023年5月号 343号

(2023/03/17)

超富裕層課税とM&A 多額の株式譲渡所得が見込まれれば、想定外の税負担

河村 美佳(税理士法人山田&パートナーズ 法人部・医療事業部 シニアマネージャー 税理士)
  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2023年5月号 通巻343号(2023/4/17発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。

超富裕層課税と「1億円の壁」

 2023年度税制改正において、超富裕層課税が発足する。所得が極めて多い人に追加の所得税負担を求めるという趣旨の税制である。年間所得が1億円を超えると、所得が多い人ほど所得税と社会保険料の負担率が下がる、という現象がある。これは、いわゆる「1億円の壁」と呼ばれ、税負担の公平性が損なわれているものとして、問題視されることが多い。今回の税制改正はこの是正が目的である。

 「1億円の壁」という言葉は、2021年の自民党総裁選で広く知られることとなった。衆院議員で総裁候補となった岸田文雄氏が「1億円の壁」の是正や金融所得課税の強化案を打ち出したところ、投資家等の疑念を生み、株価が下落する「岸田ショック」が起きたとされる。こうした経緯から、金融所得課税の増税は市場に悪影響を及ぼす可能性があるとして、2022年度税制改正では、このテーマは持ち越しとされていた。

 その後の2023年度税制改正では、金融所得課税の強化を避けて、「貯蓄から投資へ」と促すべく、一般投資家が投資しやすいようNISAの拡充・恒久化などの減税を行った。その一方で、金融資産を多く所有する富裕層を優遇することにならないよう、NISAの投資額に上限を設け、また税負担の公平性の観点から超富裕層に絞った増税を行うこととなった。

 そこで本稿では、その超富裕層課税強化に至った経緯や背景、改正の内容、改正がM&A等にもたらす影響について解説する。

 なお、毎年の個人の所得には所得税のほか、復興特別所得税、住民税が課税されるが、これらの税制についての改正はない。本稿では、税制改正のポイントを解説するのが趣旨であるため、税率に復興特別所得税、住民税を含まずにシンプルに分かりやすく解説をする。

超富裕層課税の制度導入に至った背景と現状

 2022年10月4日の政府税制調査会に提出された財務省の作成資料(図表1)によると、申告納税者が納める所得税と社会保険料の負担率は、所得5000万円~1億円の層で28.7%と最も高く、逆に、所得が1億円を超えると負担率が下がっていく。これが、いわゆる「1億円の壁」として問題視されていた部分である。

 特に、超高所得者層と低所得者層を見ると、負担率が20%弱と同程度となっており


■筆者プロフィール■

河村 美佳(かわむら・みか)河村 美佳(かわむら・みか)
大学卒業後、損害保険会社でシステム開発を担当。他の会計事務所を経て、2007年税理士法人山田&パートナーズ入所。2011年税理士登録。税理士法人山田&パートナーズでは相続税申告・相続セミナーを数多く手掛け、企業オーナーや地権者といった富裕層に対する事業承継や資産承継に関するコンサルティング対応を得意とする。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング